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【田中芳樹】アルスラーン戦記

田中芳樹アルスラーン戦記

ここ最近、ファンタジー勢めをしていてアルスラーン戦記を読んだよ!第一部全7冊を読了したのでまとめたよ〜

あらすじ

パルス王国の王太子であるアルスラーン14歳の時に隣国・ルシタニアとの初陣に挑む。父である国王・アンドラゴラス3世は武勇に優れており戦に負けなしの猛者だった。今回も順調にいくかに思えたが、怪しい霧や味方からの裏切りによりパルス王国は大敗してしまう。混乱する戦場の中、アルスラーン最強の武将・ダリューンに助けられ、以前は王宮にも出入りしていたという知略家・ナルサスに助けを求めに行くがー。少人数の仲間を得てルシタニアからパルスを取り戻すアルスラーンの戦いは、パルス王国の隠された秘密とも深く関わっていくことになる。アルスラーン自身も自分の存在について悩みながら良き王となるために奮闘していくがーーー。


読んでみて

漫画から入ったアルスラーン

元々は2013年から連載している荒川弘先生作画の漫画から入ったので、小説読んでいる時も荒川先生が描く、ぱっちりとしていて可愛い少年っぽいアルスラーンが頭に浮かんでたんだよね。漫画が面白くて小説に移行したので仕方がないのだけど、やっぱり小説は最初に読むべきだよな〜と改めて思った。なんというか想像力が限定されてしまうというか、最初に映画や漫画を読むとそれが正解になってしまうんだよね。あとは純粋に角川文庫の天野喜孝先生が描いている絵と私が想像するアルスラーンの姿(荒川先生が描いてる絵)が違いすぎてややこしくなっているのもある。どっちも素敵だし、小説版の方はああいう絵の方が華やかになるし良いんだけども私の頭の中でどうしても最初に見たアルスラーンになってしまうんだよね〜。指輪物語でもそれはあるんだけど、あっちはそれほどでもないからそんなに支障はないんだけど。

荒川弘が描くアルスラーンはこんな感じでかわいい!

エクバターナの栄華

エクバターナの栄華

  • 発売日: 2017/09/01
  • メディア: Prime Video
 

 



以下ネタバレあり!

アルスラーンの秘密

漫画を途中まで読んでいたのでそこまでは内容は知っていたのだけど、思っていた以上におもしろかった!はっきり言ってアルスラーンの秘密を知ったときは「王になるのは無理じゃないか?」と思ったんだけど、ナスサスは「血よりも国民のためになるかどうかが大事」みたいなことを言っていて、本当にそうだな、と感じた。私自身、王族モノの話で違う血筋だったら王にはなれないだろう、みたいな思い込みがあったなあと実感。人間ってそういうよく分からない決まりを守って悩む部分があるよな。全く外側にいる人間だったりそういう慣習に縛られない人間からしたら簡単なことをくよくよ悩んだりする。私がよく読んでいる宮部みゆきはそういう内部の葛藤を描くのがうまくて(例えば武士は藩が絶対、家が絶対という考え)、そういう描写のときは私自身もすごく悩んでしまうのだけど、その悩んでいること自体をぶち壊す価値観を取り入れることも大事なんだろうな、と感じた。みんながみんなできることではないのだけど。

アルスラーン銀仮面卿

アルスラーンは一見、「チートじゃん!」と思うような仲間がたくさん手助けしてくれる。血の繋がった王太子であったらトントン拍子でうまくいって終わったのだろうけど、そうじゃないのでなかなかうまくはいかない。でも血筋じゃなくてアルスラーン個人を評価している人たちが仲間になってくれるってすごく嬉しいことだよな、と思う。羨ましいよね。アルスラーン思考が柔軟で思いやりもあり、誰にでも平等に接することができる。王族じゃなくてもそういう人って稀だし、人として大事なことだと思う。

一方、アルスラーンのライバルである銀仮面はなんというか自分勝手で子どもっぽい。もちろん不幸な身の上だしその点はとても辛いとは思うけれど、だからといってパルスの王国の人々を苦しめていいわけではないと思う。自分の命の方が多くの平民の命より上だと思っているのは傲慢だし、自分勝手だし、人の上に立つ人間としても未熟だと思う。国民がいないと王にはなれないっていうことを忘れている。銀仮面にとって王というのは、ただの自尊心を満たすもの、アンドラゴラを見返して復讐するもの、それ以外のなにものでもないんだと思う。けっして頭が悪いわけではないのに、王になることにだけ固執して生きてきたからこそ、王以外の選択肢がなくなってしまっている。どこか甘えてるんだな〜と思ってしまうキャラだった。上橋菜穂子が描く精霊の守り人シリーズでも国に翻弄された人々が出てくるけど、そういう人たちはその中で自分なりに生きようとしていて、復讐だけしている人はあんまりいない。もちろん完全に復讐心がなくなったわけではないけれど。だからそういう人と比べると銀仮面は浅いというか、復讐心が残っているのが浅いのではなくて、自分の心を満たすために多くの人を犠牲にしてもいいと思っているのが浅いと思う。まあ銀仮面は国によって翻弄されたというよりはアンドラゴラスに翻弄されたと思っているからあんまり深く考えられないのかもね、と思ったり。

アルスラーンの仲間たち

アルスラーンの仲間たちはみんな個性豊かで好きだけども、ファランギースアルフリードみたいな強くてカッコいい女性が出てくるのも嬉しい。こういう戦うことが多い物語だと男性ばっかりになることも多いので。

ただ美しい美しいばかり連呼されると、そういう枠なんだから仕方ないのかもしれないけど、男性陣には美しいとか全然言わないのにな、とちょっと違和感を感じてしまう部分もある。最近は女性が描いている小説読むことが多かったからより感じるんだろうけど。そういう作者の本だとまず主人公の容姿はそんな言及されないからなあ。それにむしろあんまり美人ではない主人公が多いしね。主として男性向けに描いてるから美しい女性が出てくるのは仕方ないんだけども、男性は強ければ素晴らしく見た目がよくなくてもいいのに、女性はそこも美しくないと難しいのかな〜なんて

アンドラゴラスタハミーネ

ぶっちゃけアルスラーンを冷遇していた二人なのでそんな好きではないんだけども、タハミーネは可哀想だとは思う。だってアンドラゴラス酷すぎないか?!いくらタハミーネが心を開いてくれないし自分のものにならないからってわざと子どもを人質にとるとか。タハミーネも可哀想だけどそういう道具にされた子どもも可哀想だよね。そりゃタハミーネアルスラーンに冷たくあたるよな。

アルスラーンタハミーネが決別するシーンはすごく心に残っていて母親に振り向いて欲しかった子どもが母親と離れて自立していく場面だったんだと感じた。例えタハミーネが実の母親でなくても、実の母親だと思っていた時に無関心で冷たくされた時の気持ちは消えないし、癒されないと思う。実の母親じゃないから決別するというよりは、母親に振り向いて欲しかった子どもがその気持ちを置いて自分を自分自身で支えることを決意したんだと思う。心のどこかで自分のことをきっと見てくれているはず、愛してくれているはず、という幻想と別れを告げる。よく言われる「毒親」との決別になっている。

アンドラゴラスとは決別するにしても争いになってしまうから、きっと何か予期せぬことがあってうまくまとまるんだろうな、と思っていたけれど本当にその通りになってちょっと苦笑い。子どもが自立していく過程そのままで、強い父性に対しては力でぶつかると争いになってしまうけれど、ちょうどそういう時期に強い父が崩れる、病気になってしまうとか、会社でうまくいかなくなってしまうとか、家庭の外で弱い父をみてしまうとか、そういうことがあるとぶつからずにうまく収まるのと一緒だよね。少年から青年になっていく物語なので親との決別はつきものだし、親というしがらみから抜け出したアルスラーンは今後どうしていくのか。自分で自分の人生を決めないといけないからね。ここからがやっと本番。仲間たちがただの親代わりになってしまわないといいけどね。

戦争について

この小説はペルシャあたりをもとにしていて、ルシタニア兵が宗教を振りかざして残虐の行為を行うのは十字軍を参考にしているらしいけど、ぶっちゃけどの戦争に対してもあてはまるなあ、と感じる。近年の戦争もそうだし、第二次世界大戦での日本も天皇の名の元に戦っていたよね。どの時代も同じだし、ずっと変わらないんだと思う。人間って自分が支配することに一種の快楽を感じる部分があって、でも普段はそういうことはルールや決まりや法律や憲法で縛られている。昔は刑の執行場面をみることが庶民の娯楽になっていたっていうのを聞いたときはびっくりしたけど、そういう部分が人間にはあるんだろうなと思うようになった。子どもが虫の足とかむしったりするのと一緒なんだよな。そして何か免罪符、国を守るため、大切な人を守るため、宗教のため、神のため、などなど、があると残虐なこともしやすいんだと思う。自分の命や大切な人を守るためには必要な時もあるけど、行き過ぎるとルシタニア兵みたいになるんだろうな

アルスラーンにも支配的な残虐な部分はあるのかもしれないけれど、でもそれ以上に共感性が高いと思うから、そういう人が上に立てば戦争はなくなるのかなと思ったり。戦争の描写が中々残酷なので色々考えてしまった。アルスラーンの仲間たちは無事だけど、でも一つの戦いで多くの人が死んでいてアルスラーンたちにとってはその人たちが争いの中の「数」になってしまうのはなんだか寂しいな、と思ったり。だって絶対自分がそこにいたら一歩兵になってる確率の方が高いからね!たぶんアルスラーンの即位も見れなかった人たちは多いんだろうね。こういう争いシーンを素直に楽しめなくなったのは私が大人になったからなんだろうか。


また第二部読み終わったらまとめ書きます〜○

完結までの感想はこちら↓

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