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【上橋菜穂子】獣の奏者

上橋菜穂子獣の奏者

上橋菜穂子さんの作品ラスト!悲しいけれど全制覇してからまた読み直すので良しとする!ちょうど子どもの頃にアニメを見ていたことがあって、そのイメージが強かったのだけど本で読むと意外にあっさり進んでいくのが印象的だった!1冊でけっこう進むのね。上橋ワールドはその世界観がしっかりしていて本当にのめり込めるので楽しい楽しい。ひとまず闘蛇編王獣編を読んだのでまとめる!全体的にネタバレあり!

獣の奏者 1闘蛇編 (講談社文庫)

獣の奏者 1闘蛇編 (講談社文庫)

 
獣の奏者 2王獣編 (講談社文庫)

獣の奏者 2王獣編 (講談社文庫)

 

 

↓アニメはこんな感じ

第1話 緑の目のエリン

第1話 緑の目のエリン

  • メディア: Prime Video
 


あらすじ

闘蛇という獣の医術師をしているをもつエリン。ある時大事な闘蛇が何頭も死んでしまい、その責任を問われてエリンの母は処刑されてしまう。エリンも死にかけてしまったところを蜂飼いのジョウンに助けられる。その日々の中で王獣という偉大で自由な獣と出会い王獣の医術師になることを決心したエリンだったが、それは国の未来さえも巻き込む出来事へと繋がっていきーーー?!


読んでみて

母との別れ

まだ幼いエリンが母と別れることになってしまうが、読み始めてすぐにその別れが訪れるためびっくりしてしまう。しかも処刑の仕方も残酷で、周りの大人たちも助けてくれないのが余計に悲しい。エリンの祖父がエリンのことでさえも亡くなった方が良いと思うのはすごく怖い。自分の孫でさえも愛せない人間なのに、一方では違う兄弟の孫は愛している。とても不均衡だし理不尽だ。本人たちはそれは当たり前のことであり、自分たちに非があるとは思っていない。むしろエリンたちに非があると思っている堅苦しい戒律の中で生きている人々はその中にいる限りは心地よいかもしれないけれど、そこから外れた人にとってはとても厳しい世界となる。人の情よりも戒律を優先させた世界は温かみがなく冷たい世界になってしまう。ソヨンは悩みながらも、戒律を破ってエリンを生かす道を選ぶ。それは人として正しいことだし、大切なことだと思う。エリンが今後進む道が正しいのかは分からないけれど、戒律だからといって人が死んでいくのは間違っているし、何のための戒律なのかしっかりと考える必要があると思う。国と一緒で国民がいなければ国はない。戒律も今を生きている人間を蔑ろにしてまで守らなければいけないことなのか、長い年月が経っているからこそ振り返らないといけないように感じた。

大人っぽい少女

エリンは大人っぽい年齢よりも年上に見えて影のある少女で、ジョウンはそんなエリンに対してどう接すれば一番良いのか考えながら関わっていく。本当ならジョウンを養父としてもっとのびのびと自由になってくれた方が嬉しいしよかったのかもしれないけれど、母を残虐な方法で失ってしまったことや、元々違う人種であることで差別を受けていたことも重なって、建前上は家におく代わりに働いてもらうことをジョウンは提案する。それは一見堅苦しいようにも感じるけれど、身内にも疎まれていたエリンにとっては必要なことであったし、それがあるからこそエリン自身も安心してジョウンといられたんだと思う。悲しい部分はあるけどね。

ジョウンとの別れ

ジョウンとの別れ突然で読んでいるこちらとしてもすごく悲しくなってしまった。王獣の学舎に行くことになったことも一つの別れだったけれど、大切な人がどこかで生きているというのと本当に亡くなってしまうというのは全然違うと思う。ジョウンにまた会って色々話したり、自分がやったことについて褒めてほしい気持ちから頑張っていた部分もあったエリンにとって、すごく酷なことだったと感じた。ジョウンのこともあって、エリンはより王獣一直線になった部分もあると思う。ジョウンは本当に良い人だったし、すごい人だったし、人間としても素晴らしかったから余計に悲しかった。大切な人はいつも突然いなくなってしまう。本当に言いたいことは言えないままになってしまう。自分も周りに対してそういう気持ちで接しないと後悔しそうだと感じた。

国と王獣

国と王獣がどう関わってくるのか、なんとなくは察しはついていたけど、霧の民と王族の関係性が分からなかったので真実が明かされた時にやっとはっきりした。

エリンは霧の民と対峙した時にしっかりと断っているし、そうできるエリンの強さにすごく憧れる。実の祖母に対して少し冷たいような気も一瞬したけれど、死んだ母がエリンを助けて後悔していると祖母が言ったことに対して、死んだ母が娘を助けたことを後悔しているようならそんなふうに育ててしまった霧の民のせいではないかも非難するエリンの言葉を聞いて本当にその通りだと思ったし、血の繋がりがあってもエリンの気持ちも考えずにひどい言葉を言えた祖母は祖母ではないのだとも感じた。闘蛇集の長であったエリンの父方の祖父と霧の民であった母方の祖母。立場は違えど自分たちとは違う選択をした子どもを理解できず、そして孫であるエリンのことも理解できない、理解しようとしない部分は全く一緒だと思う。霧の民には霧の民の崇高な言い分があるのかもしれないけれど、エリンたち家族さえ幸せにできないで何が使命なのか。大きな目標のためには個人の犠牲を厭わないとしたら本末転倒ではないのか。どんな理由があろうと自分たちと違うということで差別する人間は最低だと思う。霧の民の思いもある意味洗脳に感じる。祖先が行ったことはひどいことだし二度と繰り返さない方が良いことだと思う。でもそれを子孫が永遠に受け継ぎ、戒律に従って生きなければならないとしたら問題だと思う。違うやり方で行うこともできると思う。

なりより悲しいのは真王が自分たちの存在について忘れてしまっていることだ。こういうことって時が経つにつれ往々にして起こっていくことだと思う。ハルミヤは全く知らなかったけれど、でも一部が改変させられたり、意図がすり替わっていたり、正確に伝えられなくなることはあるだろう。正しく伝わったとしても時代が変わればダミヤのような考えの人間は現れるはず。例え歴史を学んでも、それは過去の人間の失敗であって現在の人間の失敗ではないと感じてしまう。自分ならできるはず、現在ならできるはず、と過信してしまう。エリンも正にそうだったけれど、ダミヤと違う点は王獣を武器にしようとはしなかった点だと思う。自分の野心のために生き物を使おうとしなかった、生き物や自然に対して敬意を持っていた点が全く違う。現代人はダミヤと同じような考えをするだろうし、生き物や自然はコントロールできるものだと考えている人が多いだろう。そんな私たちへの警鐘のような気もした

ユーヤンとトムラ

エリンユーヤンとのやりとりは微笑ましいものがあるし、苦労したエリンに初めて対等な友達ができたことがすごく嬉しかった。なによりユーヤン自身も素敵な人で、そんなユーヤンと友達になれたエリンが羨ましいくらいだった。

「…あの組にはユーヤンがいるから、大丈夫。ユーヤンはお日さまのような子でね。早とちりの王さまだけれど、誰にも気兼ねせず、誰にも気兼ねさせない子なのよ」

こんな人になれたならなぁ〜。私はどっちかというとあんまりはっきり言わないエリンなので...。

また、トムラとエリンの関係もおもしろい。トムラとエリンは最初はあんまり仲良くないし、エリンは人間<王獣という図式だから、王獣のことになると誰にも気兼ねせずにはっきり言える。だからトムラはエリンのことを生意気だと思うわけだけど、最後にはエリンを賞賛する。

「発想もすごい。おれ、今回つくづく思った。人にどう思われるか気にしていると、発想も縮こまるんだな。おまえは、そういうことに、信じられないくらい無頓着なんだよなあ。突拍子もないことを言いだして、笑われるんじゃないかとか、まったく考えない。だから、人が思いつかなかったことが、できるんだな」

周りを気にしない、というのはすごく大事なことだと思う。日本だと同調圧力が強いし、軒並み合わせることが正解みたいな風潮があって中々自分の意見を主張できないことが多いのだけど、「それじゃあダメだよなあ。」と改めて感じさせてくれた。新しいことをやるのに人を気にしてちゃ意味ないし、本当にやりたいことがあるなら周りを気にしてたらできないもんね。

イアルと獣

イアルと闘蛇、王獣たちは似ていて、エリンもそれを実感している。イアルは王獣と一緒で自由を奪われ、選択肢を奪われ、目の前のことしかできないようにさせられる。イアルは正に獣たちがされていることをさせられている人間であり、そういう人間はきっと彼らだけではないのだろう。本当は自分は大空を舞うことができ、艶やかな毛並みを持って家族を作ることができる。でもそれはできなくさせられてしまう。できないと思わせられる。どっちの人生が幸せかは分からないけども、始めから選択肢をなくして提示されるのと、全ての選択肢の中から自分で決めるのは全然違う自分で自分の人生をコントロールできないことはそれだけで人生の輝きが減ってしまうんだと思う。

エリンとリラン

最後にリランがエリンを助けるのは感動的な面もあるけれど、それ以上にリランのことを本当に分かっていたわけでもないという側面もある。自分の子どものように育ててきたリランが凶暴な獣でもあることを突きつけられて、エリンはリランと心の距離をとっていた。でも最後の場面で、リランはその距離を飛び越えてきてしまう。普通の人間同士の関わりとは全く違う関係性がエリンとリランにはある。多分リランにとってはエリンを助けたことに大した理由なんてないのかもしれない。それでもエリンの関わりは無駄ではなかったし、リランに届いていたのだと感じさせてくれることは、この先のエリンの人生の希望になると思う。あんまり私は動物と関わったりはしないのだけれど、動物と関わる人は分かっているようで分からない、絆がないと思っていたらある、みたいなことを感じたりするのだろうか?エリンが感じたことを感じたりしてる人もいるのかな、と思うと羨ましく感じる。

深い淵をはさみ、わからぬ互いの心を探りながら。ときにはくいちがう木霊のように、不協和音を奏でながら。それでも、ずっと奏で合ってきた音は、こんなふうに、思いがけぬときに、思いがけぬ調べを聞かせてくれる……。

この最後の部分はすごく心に残っている。人間同士も当てはまる部分があるなぁと思う。

エリンとリランの続きを読むのが楽しみ。