文学系心理士の自己投資ブログ

文学系心理士の感想部屋

文学系心理士が好きなことを徒然なるままに書きまくるブログ。小説、NETFLIX、たまに心理学のことも♪

【上橋菜穂子】香君

上橋菜穂子先生の最新作!

やっと感想書けました〜!表紙も素敵すぎる!

 

あらすじ

アイシャには香りが持つ意味が読み取れた。そんな不思議な嗅覚を持つアイシャだったが、西カンタル藩王の孫娘ということで処刑されようとしていたーーー!

 

読んでみて

大好きな上橋菜穂子先生の最新作ということで、とてもとても楽しみにしていた。楽しみにしていたからこそ、落ち着いてから読もう読もうと思っていたら読むのが遅くなってしまった。

やっっと読めて満足。そして期待を裏切らない。いつも大好きな上橋菜穂子ワールドに連れていってくれる。


上下巻だけなので、個人的にはやや駆け足な感じがしてもっと読んでいたかった。「獣の奏者」でエリンが母を亡くして引取られて成長して…という流れと今作のアイシャは少し似ていた。

両親と離れ、命の危険がありたつも生き残り、家族と離れて香りについて学んでいく。もっとじっくりアイシャの人生を見たかったなと感じた。ただ、「獣の奏者」はエリンの人生が主軸という感じだったけれど、今作はアイシャの人生というよりは、アイシャとともにオアレ稲の問題というのが主軸という感じだからかな。

外伝的な続編出ないかな〜と思うけれど、とても綺麗に終わっているから難しいかなあ。

 

 


以下ネタバレあり!!

 

 


香りを感じることができる少女。

本を読む前はどういうことができるのかよく分からなかったけれど、読んでみると香りや匂いから本当に色々なことを知ることができるのだと分かった。ドアの外に誰がいるかとか、その人がどういう心理状況なのかまで。

なんて便利なんだ!

と、思ったけれど、植物からアイシャが感じる香りはうるさいくらいで。人は気づかないだけで本当は世界には色々な香りがあるのだなあ。色も動物によっては見え方が違うんだもんね。私たち人間が見ている世界は本当に限定的なのだと改めて実感した。

便利な能力だけれども、人には分からない世界にいるということは同時に孤独でもある。誰も理解してくれないのは辛い。知らないと便利だと思ってしまうし、便利だけれどだからこその苦労とかだからこその喜びとかをなかなか共有できないよね。唯一の理解者であった母も早くに亡くなってしまうし。


また、最初はマシュウがとっっでも嫌なやつに感じていて、一矢報いてやりたいと思っていたけれど…。だんだん状況が分かってくると、不器用だけど安心できる存在だと分かってきたり。


全体的に不穏な空気が漂っていて、オアレ稲の問題がいつ起こるのかをハラハラしながら読んでいた。どれくらいタイムリミットがあるのかも分からなかったし。

また、みんなが少しずつ嘘をついていてそれもいつ発覚するのかドキドキしたり。

オリエは早くアイシャに言えばいいのに〜と思いながら読んでいた。アイシャは自分と同じ境遇の人がいたと思ったのに残念だっただろうな。


ただ、オリエの状況は可哀想すぎて…。

神様のように崇められるのに、もし言うことを聞かなかったら始末されたりする存在。地位が高くて自由そうに見えて全く自由ではない。結婚もできないし人権が全くない。ひどいよね。

そんな中でもオリエはプライドを持って自分ができることをやっていこうとする姿がかっこよかった。マシュウはハラハラしただろうけども。


そしてウマール帝国にオアレ稲をもたらした少女は誰なのか?どこから来たのか?その謎が明かされる過程もとてもよかった。

神話や歌に隠された情報から考えていって、最後にはパズルのピースがはまるように謎が解けていく。

そして2人は自分たちの故郷へ。


不思議な世界の存在が明らかになっていく。

ただ、最終的にはちゃんとはっきり分かるのかと思っていたら、そこは曖昧のままで終わって残念だった。「精霊の守り人」で出てきた向こう側の世界みたいなものなのだろうか?

歳をとって記憶がなくなって彷徨うというのもなんだか浦島太郎みたいだなあと思ったり。

こちらとあちらは違っていて、時折重なることはあるけれどスムーズに行き来することはできない。異世界に行ける話はよくあるけれど、本当はそんな簡単に行って帰ることはできないのだろうな。不思議な世界は魅力的だけれど、帰って来れないことを考えると行きたいとは思えないよね。

でもあちらではどんなことをしたのか…。色々考えてしまう。

 

心に残った個所。

(……私は)

聞く者で、いいのだ。

夕べの風の中に、無数の香りの声が聞こえる。  人の輪の中で安らいでいるときは、忘れ去っている声だ。

 

中略

 

(私も、歩いて行こう)

孤独であることが、見せてくれる道を。

命がある限り、芳しい香りを放ちながら。多くの香りと交わりながら。

多くの命と支え合いながら。

 

終わりに

ややエリンを感じる部分もあり、鹿の王のように国全体の問題が出てくる部分もあり。問題をみんなでなんとか解決していこうとする場面は手に汗握る展開だった。アイシャたちからみると敵対関係にある相手であっても、その相手はその相手で自分たちなりに国のことを考えていて、正義と悪が明確に分かれているわけではないことを教えてくれる。ただ、それでもアイシャの主張や上橋先生の主張は一貫している。

人の思惑なんか関係なしに植物や虫たち、この世界は成り立っている。人からみると害をなすものであっても、そのものたちも生きるために必要であるという背景がある。ウマール帝国の人々も生きるためにオアレ稲を作っていたのに、いつしかそれが侵略のために使われるものに変わってしまっていった。生きるためではなく、より良い暮らしをするために他者を蹴落として自分が上にいくために変わっていってしまった。その境界線はどこなのだろう?侵略した後も内地と属国で差ができてしまっていたし。

どんどん欲張りになって他者の人権を蔑ろにするのではなく、お互い尊重し合えるといいと思う。私も最近環境が変わったりして、以前は当たり前じゃなかったことが当たり前になったりしていて、それにいつの間にか慣れてしまうのは怖いなと感じた。どんどん欲張りになってしまうように気がして嫌だなあと。隣の芝は青いみたいに周りと比べて満足できなくなるのではなくて、今ある自分の状況を大切にしないとね。

まあでも人は成長するからずっと同じ価値観は難しいけれど、よりよい方向にアップデートしたいなあと思います。

 

少し時間があいちゃったけれど、またブログ投稿していこうと思います!