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【クリス・ウィタカー】われら闇より天を見る

表紙が目を惹く。

ミステリーとはまた違う物語になっている。

 

あらすじ

「無法者」だと自分のことを思っている少女・ダッチェス。母・スターアルコール中毒で幼い弟の世話はダッチェスがやっている。気にかけてくれるのは母の友人でもある警察署長のウォークだけ。そんな中、かつての事件の加害者であったヴィンセントが街に戻ってくる。

 

読んでみて

よく本屋で見かけてはいたけれど、暗そうな話だったのでなかなか手を出せずにいた。ところが読んでみたらあっという間に物語に引き込まれてしまって、すぐに読み終えていた。

 

主人公は少女・ダッチェス、警察署長のウォーク

2人の視点で描かれる今作は、ダッチェスの痛々しさがとても心に堪える物語だった。

ダッチェスは自分の身は自分で守らないといけないと思っている。母はいつも期待を裏切るし、普通の生活はできない。自分たちを守ってくれる保護者がいないから、自分が弟を守らないといけない。唯一自分たちを気にかけてくれるウォークとも少し距離を取ろうとするのは悲しかったけれど、ダッチェスからすれば当然のことだと思う。自分は「無法者」で周りとは違って強いんだと思うことでなんとか耐えている少女だから。ウォークも不器用だし。

 

ウォークにとっては幸せだった関係がある事件をきっかけに全てが変わってしまった。その加害者がウォークやスターと親友だったヴィセント。スターにとっては恋人でもあった。

この事件が少しずつ明かされていくのだけれど、なんとも悲しい事件だった。この事件そのものが、そしてその後のヴィンセントの境遇。それらが積み重なっていって今の悲しい現実になっている。

ダッチェスの境遇は親世代からの負の遺産だからこそ、ダッチェス自身がどうにかできるものではない。もっとサポートは入らないのだろうか、でもそれがロビンと離れ離れになることであるならばダッチェスは今の境遇を選ぶだろう。

ダッチェスの無鉄砲さがより混乱を引き起こしているのだけれど、でもそれはダッチェスのせいというよりは、ダッチェスの周りの大人がしっかりと彼女の保護者になれなかったせいのように感じる。でも、「もうやめて〜!」と何度か思ったけども。


そしてこの物語の影の主人公である・ヴィンセント

ヴィンセントを中心に物語が展開されるけれど、ヴィンセントが考えていることは最後になるまで明かされない。それ故、ヴィンセントを信じたいけれど信じられない状態になっていく。でももっとどうにかできたのではないかと思う。不器用だよね。ヴィンセント含めてみんな。

でも被害者と加害者関係とか全員が顔見知りの小さな街とか、色々な感情が湧き起こってうまくいかなくなるのは仕方がないように思う。ただ、それが一番弱い存在である子どもにいってしまうのが本当に悲しいけれど。

 

そしてダーク。ダッチェスから見ると怖くて悪いやつという印象だけれど、彼にも心の傷がある。出てくる人全てが傷ついていて、この物語の中でもさらに傷つくのだけれど、なんとか自分の愛する人を守ろうとする。それが空回りのようにも感じることもある。


どんどん悲しいことばかりが起こって、全体が陰鬱な物語だったけれど、最後の最後で少し希望が見えたのが嬉しかった。でもそれもダッチェスの犠牲の上ではあったのだけれど。それを思うと悲しいけれど、彼女は負の連鎖を断ち切ることができたのだと思う。