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【小野不由美】図南の翼

小野不由美】図南の翼

十二国記第6冊目!4巻の「風の万里 黎明の空」でもちょびっと出てきた恭の王様である供王・珠晶の物語麒麟を平手打ちするするような豪快さがあって、でも見た目が可愛い彼女がどうやって供王となったかを綴るロードノベル!

ちなみに解説で「ロードノベル」と書いてあったのだけど、なんのことか分からずに調べたら、主人公が旅をしながら成長していく物語のことらしい。なるほど!一つ賢くなった笑!

↓これまでの記事はこちらから↓
oljikotoushi.hatenablog.com

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あらすじ

に住む12歳の少女・珠晶(しゅしょう)は、王がいない時代に生まれ育った。27年も空位の時代が続き国は荒廃を続けていた。嘆くばかりの大人たちに嫌気がさし、親の目をかいくぐって麒麟がいる地・蓬山を目指すことにする珠晶。しかし蓬山がある黄海妖魔が彷徨う土地であり、なんとか危険を乗り越えながら旅路を進んでいくがーーー?!


読んでみて

ついつい笑顔に!

珠晶の気が強い性格にはついついこちらが笑顔になってしまう。周りは大人たちばかりなのに珠晶はそんなことには臆せずにいつも堂々としていてカッコいい。いいところのお嬢様で人に命令するのは慣れているのだろうけど、それでもカッコいい。珠晶の若くて初々しくて真っ直ぐで勢いがある性格が羨ましくなる

陽子の時とは違ってなんというかねちっこさはなく全体的にさっぱりしている。今までの中で一番読みやすいと思う。

4巻は勧善懲悪的な要素があったけども、今回の6巻は王道の冒険物語という感じがする。よく思い浮かべるような冒険の形とはちょっと違うのだけど、王道だなあと感じられる。4巻でチラッと出てきた時も好きになったけど、今回でより珠晶のことが大好きになった!


大人たちの攻防

蓬山を目指すにあたり、妖魔から身を守るために皆ひとつの一団となって移動していく。1ヶ月半くらいの道程において、ちょっとずつグループというか派閥ができ始める人間らしいな、と思う。そこでうまーく無難にやるのが大事になってくる。ただ、普通の旅とは違うのは、皆「王様」になりに来ているわけで、つまり「悪いこと」をする人はいないという点が普通の冒険物語とは異なる。

これを作中に言われた時、「確かに!」って思ったもん。初めて会ったばかりの人間が集団で過酷な旅をする状況って、普通は裏切りとか仲間割れとか、とにかく良くないことが起こる。でも一応表面的にはそういうことは起こらないし、みんな起こさないようにがんばっている。なにしろ麒麟に選ばれなくなっちゃうかもしれないからね

でもまあそこで頑張らなきゃいけないぐらいのレベルなら王の器ではないのだろうなあと思うけど。

空位から27年経過しているため、それなりに自信がある人間は既に昇山した後になっている。だから「小物」が多いらしい笑。27年も王様を見つけられなかったなんて供麒は何をしてたんだって思うよね

まあ私たち読者は誰が選ばれるか知っているわけだけど、知らなくても珠晶が選ばれそうなのは道中を見てれば分かる

一緒に蓬山を目指す大人たちの中で、主要な人物が2人いる。李和紵台という大人の男だが、やり方や考え方は全く異なる。李和の方は蓬山のことを知り尽くしている剛士たちの後ろに付き従って剛士たちの真似をしていた。反対に紵台は真似などせずにあえて反対のことをやろうとしているように見えた。どちらも剛士を雇わなかった、という部分は一緒だが最初は李和の方が賢いようにみえた。ところがそうみえただけで、というか違う見方をすると全く逆なことがわかりはじめる

李和はただただ剛士の真似をしていただけで、それをどうしてするのかなんでする必要があるのか、そこまで考えることができていなかったただ真似をするだけ

紵台は剛士の真似をわざとしていないようにみえていたけれど、実際は剛士と全く同じことはできないからこそ違う方法を試していただけだった

それは妖魔がいる可能性が高い道を行く時にはっきりして、剛士とは反対のことをしようとしていた紵台が剛士の言うことを聞きいつも剛士の真似をしていた李和が言うことを聞かなかった場面で現れた。李和は今まで自分の思惑とは外れていなかったから剛士の真似をしていただけで、剛士が何を考えてどうしてそう言ったのか考えていなかったからこそ、自分の思惑(馬車を捨てたくない)がある場面では剛士に従わなかった中身がないのはどう考えても李和だし、でもそこまで自分を省みることもできない

妖魔が来るから「火を消す」、でも妖魔は明かりが苦手だし人も妖魔が見えないと逃げられないから少しの「明かりを点ける」ということが李和には分からなかったほどよさよか曖昧さとか、そういうのが李和には分からない。それこそ最初に言われていた「小物」だと思う。曖昧さに耐えきれない人間は上に立っても難しいと思うし、特に人の命を預かる王には向いていない。商人には向いていると思う。商売には曖昧さってそんないらないし、結果が数字となって現れるから。だから李和は商人としては成功したのだろうな。


珠晶は幼い

「助け合う、ってのはお前、最低限のことができる人間同士が集まって、それで初めて意味のあることじゃねえのかい。嬢ちゃんの気持ちは分かるが、できる人間ができない人間をただ助ける一方なのは、助け合うとは言わねえ。荷物を抱えるってんだ」


珠晶に剛士の一人が言った言葉。見に染みる。利広は珠晶に対して「きみは、幼い」と言った。その意味を珠晶はその時点で理解はできなかった。それは珠晶が賢くないとか頭が硬いとかそういうことじゃなくて、利広が言った通りに「幼い」からにほかならない

若い時って理想を抱えがちだし白黒はっきりつけたがる。たとえば、環境を整えて清潔にして欲しいものを与え理想郷のようなところを作ったとしても罪を犯す人間は出てくる良い状況を作っても不正をする官吏はいる。どれだけ幸せに育っても意地悪する人間はいる。それって理屈ではない。そういうもの、というか、それが人間性というか。完全に品行方正に全ての人はなれない。不思議ではあるけれどそういうのも事実で。現実は小説よりも奇なりというけれども、本当にその通りで自分が考えたり想像したことのあることは大抵誰かがやっている。こんなことするはずないだろ、と思うこともやってたりする。

みんなが仲良く助け合うことはできない。どれだけそっちの方が安全で、楽しくて、利益があるとしても。そういうのってたぶん大人になって社会にでると無条件に突きつけられるんだと思う。別に実際には出会わなくてもそういうことを見聞きしたりして現実を知っていく。でもまだ珠晶は幼いからこそ、話せば分かってくれるという思いが強い。それに珠晶は高飛車ではあるけれど自分の正義を持っていて、時には柔軟に対処することもできる。それってすごく貴重なことであって、なかなかできない。あとは多くの人は珠晶ほど賢くないっていうのもある。頭が凝り固まっているのと考えられないのと。李和はどっちもだなあと思うし、紵台は考えることはできるけど頭は硬い。剛士を雇わないことに対して一見理由がちゃんとしてそうだけど、結局は剛士たちのことを下に見ているとような気もする。剛士たちと協力するっていう感覚がないからこそ剛士たちを雇わなかったんじゃないかな。


鵬翼に乗る

王がいる旅路のことを「鵬翼(ほうよく)に乗る」と言うらしい。はっきり言って今回の旅もけっこう大変そうに思うのだけど、それでもまだまだ良いほうらしくて、昇山するってかなり大変なことだったのだな、としみじみ

2巻では泰麒は蓬山で待っているだけで王に会えていたので、まさかそこまでたどり着くまでそんなに大変だとは思わなかったよね。あそこまで辿り着けるのってそもそもすごいんだなあ、と。ただあの時も王がいたわけだから鵬翼に乗ってたんだろうね

王を守る力が働いているなら楽勝じゃん!と思ったのだけど実際に王が命を落とした例もあるらしくて、そんなことあるの!?と驚愕した。悲しすぎる。そういう場合は麒麟はどうなるのだろう?他の王気を探すのか…。でもそれを知ったらすごく嘆き悲しむよね麒麟は王気を感じたらさっさと迎えに行けばいいのに。景麒は迎えに行ったのにね。

確かに珠晶は運が良い。無事に故郷から黄海の近くの街まで行けて、そこでたまたま頑丘に出会って、その頑丘は剛士とは正確には違うけれど黄海のことを知り尽くしている朱氏で。朱氏が昇山に付き添うなんてこと滅多になくて。そして利広にも会って。最初まさか麒麟?でも金髪じゃないし…。って誰なのかわからなかったけれど知らなかったから分からないのは仕方ない笑国を巻き込むほどの運気ってすごいな〜うらやましいな〜。

あと最後の最後で表題でもある「図南(となん)の翼」についての説明がされる。「鵬」という鳥がいるらしい。

背は泰山の如く、翼は垂天の如し。はばたいて旋風を起こし、弧を描いて飛翔する。雲気を絶ち、青天を負い、そしてのちに南を図る。南の海を目指して。

(……図南の翼……)

その鳥の名を、鵬という。

大事業を企てることを図南の翼を張ると言いゆえに言うのだ、王を含む昇山の旅を、鵬翼に乗る、と。


犬狼真君との出会い

ああーーーーーっとなった!!!最後の場面で!!まさか!!って!!真君と珠晶の話の掛け合いでは、真君にも物怖じしないで堂々としている珠晶は強いね!笑

真君は珠晶に意地悪を言って試すのだけど、ここで初めて珠晶が昇山した理由が語られる。

「あたしばっかり大丈夫なんじゃ、寝覚めが悪いからに決まっているじゃない」

黄海に行って帰ったら、あたし堂々と、やるべきことをやってから嘆げば、って言ってやれるわ。妬まれたって羨まれたって、あたしは恵まれているぶん、やるべきことはやったもの、って言える。そうしたらもう、無理に官吏になろうとか思わないで、すき勝手にできるのよ」


珠晶らしいというか子どもらしいというか、でもなんかあったかくなる理由だなと思った。でもそれで行動しちゃうのはやっぱりすごいよね。その行動力も王の器だからなのかなあ

そして最後に珠晶が犬狼真君に名前を聞いて、一言、「更夜」と言った時ね!!更夜だったのか!という驚き。前はもっと可愛げがあった感じだったけれど、もう立派に天の人みたいになってて。更夜にまた会えたのがすごく嬉しかったし、更夜は自分の妖魔に「ろくた」と名付けていて、今度は珠晶が騎獣に「こうや」と名付けることになって。そして珠晶は王になるから、延王や延麒とも知り合うはずで…!巡り巡ってって感じだよね〜としみじみ。

でも更夜が天の一人になっちゃったのなら、天帝に会ったことあるはずで、ってことは本当に天帝はいるの?まあいるんだろうけど、王たちとは関わりを持たないのかな?でもなんで更夜は関わりを持ったのか。やっぱり黄海に住んでいたから?と謎が深まる。これっていつか分かるのか?


供麒との出会い

わりと最後の方はとんとん拍子で進んでいって供麒に出会うのだけど、そこでまた珠晶らしさが爆発する感動の再会!と思ったらすっとこどっこい!なんと平手打ち!!麒麟に平手打ちしていいの?!とこっちが思わず思ってしまうというか。

っていうか初対面だよね?!と笑。でもまあ珠晶の言いたいことも分かる。さっさと麒麟が迎えに来てくれたらそんなに苦労しなくて済んだわけだし、他の昇山する仲間も死ななくてすんだかもしれないのに何やってたんだ!とね。王気が分かるならさっさと来いよ!とね笑

なんかその辺りは分からないのかな〜。生まれた瞬間には王気はないのか?成長していく過程に分かるものなのか、人となりとかそういうのが構築されないとできないものなのか?謎。まあそんなうまくいったらこの旅はなかったのだけど、王気があってもただ単に麒麟が迎えに来てくれるのとこうやって苦労を重ねながら旅をしていくのでは王の人格にも影響が出そうだけどね。そういうのも大事だからなのか。珠晶もこの成長の過程で王気が強くなったりした?とか??