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【小野不由美】十二国記 白銀の墟玄の月

小野不由美】白銀の墟玄の月

あらすじ

泰麒が戻った。李斎とともに戴国へ戻り、驍宗を探すことにする。しかし驍宗は行方知れずで仲間たちもどこにいるか分からない。阿選に気づかれないように行方を追うがーー?!


完全ネタバレです。

 

 

 

 


もう本当に最高でした!ただもっとみんなと一緒にいたかったなーと思ってしまう。ラストのあっさり感が荻原規子先生と似ているんだよね。よくある小説とか漫画とかは過程と結果が大事なことが多いけど十二国記は結果自体は大事ではなくて結果に至る過程が大事っていう感じなんだよね。荻原規子先生の作品もそうでRDGなんかは「これから面白くなる!!」ってところで終わるの笑。悲しすぎる。今作もそうで、そりゃもう勝敗は決したけども!でももっとみんながどうなったかとか、ちょっとでも幸せになったところ見たかったと思ってしまう。まあ勝ったからと言って幸せになるかは分からないし大変だとは思うけど。泰麒も後遺症がありそうだしね…。

 

はっきり言って3巻くらいまではちょっとずつしか話が進まなくて、驍宗はまだ出てこないの?!とソワソワしていました。だからやっと!やっと驍宗が出てきて、李斎と霜元に出会えたのが本当に嬉しかった。特に李斎!あれだけ頑張ってきた李斎が報われて嬉しかった。それに驍宗が生きていられたのも民が苦しいながらもお供えをしてくれていたからで。最初は匿っている村人が流しているのかと思ったけれど、そうじゃなくて。驍宗が生きていなくても驍宗のために流していたのだと思うと感動した。驍宗は本当に良い王になっただろうし、良い王になるだろうに自分の力を過信しすぎたのが今回の要因だよね。驍宗も阿選もお互いを意識しすぎた結果のように感じる。驍宗は阿選が謀反する可能性が高いと分かっていたのなら自分だけで対処せずに王として対処すべきだったと思う。

阿選は何度も自分は嫉妬していたわけじゃなかった、と言う。確かに嫉妬っていう軽いものではなかったのだろう。お互い意識しすぎで自分の価値観を決めるのに相手に頼りすぎていた。でも驍宗は戴を一番に考えたし、距離を取るのがうまかったのだと思う。阿選は自分の存在価値を驍宗に頼っていたけれど、驍宗の方が将軍としての存在価値を阿選に頼っていたっていうのが違うように感じた。だから驍宗は軍を捨てても自分という存在を持てたけれど、阿選は軍から退くと自分の存在価値をなくなってしまうから戴から出ることもできなかったのだろうな。なんというか仙なのだしもうちょっと内省しよ?と思ってしまう。

 

阿選の非道さ

阿選の暴虐無人な振る舞いは信じられなかった。多くの民が殺され、困窮を極めているのにそれを気にしないでいられるっていうのはひどい。政治を行うところと民がいるところがあまりにも離れすぎているように感じる。例えば天と十二国のように。離れすぎているから民の声を直接聞き取ることはできない。聞こうと思わなければ聞かなくて済む。それに阿選の目的は驍宗を倒して自分の方が上だと感じることにあったからこそ、それが成し遂げられた後の気力が続かない。阿選にとっては民を虐げることは目的達成のための手段だからこそ、どれだけ死のうが関係ない。人を殺しているっていう感覚も薄かったように思う。だって阿選は直接手を汚さないで済む。そう思うと麒麟とやり方は似ている。麒麟も妖魔を使役して身を守っている。妖魔は殺生をする。それを命じているのは麒麟だ。例え明確に指示を出していいなくとも。途中で泰麒はそれに気づく。

麒麟は司令に守れと命じる。それは畢竟、敵を倒せ、場合によっては殺しても構わないという命にほかならない。全ての麒麟は殺傷した経験がある。ただ、その自覚がないだけだ。

阿選も同じなのではないか?阿選が直接民を害したらまた変わっていたかもしれない。でもそれをしたのは彼らの部下で、彼らは葛藤しつつも自分の主に従うしかなかった。主はそんな部下を気にかけることもできなくなっていたから、阿選が気づくことはなかった。自分の一挙一動がどれだけ他者に影響を与えるか。阿選はそこに気付こうとしなかったし、それよりも自分と驍宗の関係だけをみて他は全部そのための駒だった。亡くなった人も町もただの数や場所でしかなく、自分が驍宗より上になるために必要かどうかだった。

阿選は驍宗が自分と競い合ってなかったのではないか、という旨を琅燦にこぼす。すると琅燦は呆れたように言う。

「競っていたから、だろう。驍宗様は目的と手段を履き違えるような真似はしないんだよ。(中略)驍宗様があんたと競っていたのは、突き詰めて言えばどちらがよりましな人間か、ということだったんだ。(中略)あんたはそのうち、何を競っていたのか忘れてしまったんだよね。何が何でも驕王の歓心が欲しかった。より重宝されてより高い地位が欲しかったわけでしょ。ーーでも、驍宗様は、あんたと何を競っていたのか、それを忘れなかったんだ」

本当に琅燦の言う通りだと思う。驍宗は阿選と競い合っていた。そこは双方同じだった。驍宗は阿選よりも広い部分で阿選と競い合っていた。軍の職を辞した理由が阿選だったのに、それが阿選に伝わらなかったのは皮肉だと思う。そして長年山の奥深くに一人でいた驍宗は昔の驍宗とは少し違っていた。もう阿選と比べることなんてしないし、それよりも民を最優先に考える。大変な状況だったし、一人で長年生き抜いのはすごい。でもそれを乗り越えて驍宗も成長したのだと感じた。もちろん泰麒も成長した。ただ阿選だけが成長しなかった。ずっと捕われ続けたままでそこから一歩の動くことができなかった。

人と比べてしまうのはよく分かるし、自尊心も傷つく。でも人と比べない人間が一番のびのびしていて人生を自分でコントロールできていると思う。基準を他者にするのではなく自分にすれば、自分が成長した分だけ自分の自信になる。周りに振り回されなくても済む。結局死ぬときは一人だし、その時に他者と比べてどうだったかなんて意味がない。自分が満足したかどうかが大事だと思う。でも自分が阿選になるかもしれない怖さは常にある。

 

主の命令

王位を簒奪することを決めた阿選に阿選の部下たちは従っていく。軍だから上官の命令は絶対っていうのは分かるけど、でも王位を簒奪するのに従ってしまうのってどうなの?と思ってしまう。国の根本が揺らぐわけだし、そもそも十二国の根本を揺るがすことだと思う。

今まで軍<国と思っていたけれどあんまりそういうわけじゃないんだね。民にとっては王は絶対だけれど側にいる家臣にとってはそういうわけじゃない。陽子の周りにも陽子を軽んじる人たちは大勢いる。王だから仕方なく言うことを聞いているだけで、王だから無条件に支持するわけじゃない。でも麒麟については違う。阿選の部下が驍宗に刃を向けても麒麟に刃は向けれなかったのは興味深い。麒麟は絶対的な存在。天と通じているし人間でもない。でも王は人間だからこそ侮りが生まれる。

阿選には芳の人たちを見習って欲しい。爪の垢でも飲んだ方が良い。残虐な王を弑することに対してあれほど罪に感じている月渓を見習うべき。でもそもそも阿選は驍宗を王だとは認めてなかったわけだから月渓のように感じるのは無理なのかもね。陽子みたいに玉座と全く関係ないところから選ばれるのはそれはそれで大変だけど、驍宗のように王座に身近にいたからこそ妬まれる場合もあってどっちも大変。でも万人に受け入れやすいのは陽子の方なんだろうと思う。時間が経てば陽子のことを認める人は増えるだろうし、そもそも王としての陽子しか知らないから認めやすい。驍宗の場合は多くの人に最初から受け入れやすいけど、驍宗と競い合っていた阿選の陣営からはなかなか受け入れられない。難しいなあ。私はあんまり忠誠心とかないので軍の人々がそれほどまでに主を心酔する理由が分からない。

李斎は例え阿選が王だとしても驍宗側に着くと決めたけれどそれは心酔ではなくて阿選側がやったことが許せないだけ。阿選は李斎ともっと早く出会えっていれば、と思う場面があるけれどそれで何か変わっていたとも思えない。だって阿選は自分より下だと思っていた人間が上にいくのが許せなかっただけ。李斎は驍宗と自分を比べていたわけじゃないからこそ、対面した時に驍宗の力量を素直に受け止めれた。

阿選の部下の多くは阿選が事を起こしてから初めて知っていたわけで、だから阿選に従うしかなかった。事前に伝えたら止められることを阿選も分かっていたからこそ言わなかった。その部分でもはや王位を簒奪することが正当ではないことが分かる。自分の信頼していた部下にさえ頼れなくなった阿選が誰とも会わなくなったのも分かる。もっと強く止めてくれる人がいたらよかったのにね。例え事を進めてしまっていたとしても止めてくれる人が。驍宗の部下の方が驍宗のこと止めそうだもん。李斎も悩みつつも止めそうだし。

 

驍宗と泰麒

驍宗は自分のせいで民がこれ以上傷つくのをみたくなくて、泰麒は王のためなら民を傷つけるのも仕方ないと感じる。お互いがお互いに歩み寄っているように思う。昔の泰麒を知っている身としては悲しくも感じる。でも成長としては陽子と似ているはずなのにね。陽子は頼もしくなったと思うけど泰麒については寂しく感じるのはやっぱり麒麟だと思うからだろうか。

泰麒のことを周りのみんなは幼いと言う。驍宗は守ってやれなくて済まなかったと言う。みんなは泰麒のことを麒麟としてみているけれど、驍宗は民の具現化としてみているように思う。麒麟だから守らなくてはいけないのではなくて民の具現化だから守らないといけない。でも民は守られてばかりではないし、戦いもする。実際に6年以上もの間、驍宗の命を救ったのは民だった。戴の民は自分たちで戦わなければならなかった。そして同じく泰麒も自分で戦わなければならなかったんだな。

 

泰麒の戦い

泰麒は途中で李斎から離れる。李斎からしたら衝撃だし、私も李斎がどれだけ頑張って泰麒を見つけたのか知っていたから心苦しかった。でも泰麒からしたら自分を守ってもらうのではなく、自分が戴のために動きたかったんだよね。ただでさえ長い時間無駄にしたわけだし。だから泰麒は自分で考えて自分で動く。項梁は泰麒のことをしっかりと知らないからこそ泰麒に疑念を抱く。李斎も泰麒が陰で動いているなんて思いもしない。でも流石に項梁は泰麒のこと信じてあげてー!!って悲しくなったよ〜。まあ天がどう決めるのかなんて分からないから仕方ないのかもしれないけども。

 

怒涛のラスト

とにかくどんどん人が亡くなる。えっ?!あの人も?とびっくり仰天。悲しすぎる。静之もなんて…そんな…。壮大な見せ場があったわけでもなく、あっさりと亡くなる。それが戴の多くの民と重なる。人知れずに死んでいった人々、殺された人々。彼らには家族がいて家があって未来があった。なのに亡くなってしまった。日の目をみることなく亡くなった人たちを思うと悲しい。でも驍宗はその犠牲を忘れないだろうし、忘れずにその人たちの分も戴に尽力してくれると思う。

 

夕麗と李斎

夕麗と李斎の会話が感動する。

私は女です。李斎様ならお分かりくださすと思います。兵卒で、女であるということがどういうことか。朋友ほど体格に恵まれず、膂力にも乏しい。生来のもので、朋友よりもどうしても劣る。それがどれほど悔しいか」(中略)「望んで軍に入ったのですが、なんて高い壁なのだろうと思っていました。それが、李斎様が将軍としてあられるのを見て、本当に救われたのです」高い壁だが乗り越えられる。李斎にもきっと同じ苦労があり、それを乗り越えてきたのだろうと思えた

あんまり男が女かよく分からずに読んでいる部分がたくさんあって。名前からだと判別するの難しい。でもわざわざ書かれていないってことは男なんだろうな、と思ってはいたけれど。男女差はないって最初に書いてあった割には軍には男性ばかりだから「?」と思っていたのだけど、体格はちゃんと男女差があったのね〜と納得。

 

泰麒と驍宗の再会

そうあって欲しいと望んでいた通りの再会で感動した!もしかしてみんな負けて終わり?!と思う部分もあったのだけど、でも天はどこからか味方してくれるはずだし、泰麒も何かできるはず!と思っていたら泰麒が頑張ってくれた。驍宗と会えて本当によかった。1巻で陽子と景麒が再会した場面を思い出したよ。でも黒麒は黒麒でかっこいいね。

泰麒は1年ちょっとしか戴国にはいなかったけれど泰麒が下男下女を大事にしていたおかげで助かった命がある。李斎の言葉が心に滲みる。

過去に積み上げた小さな石が、知らぬ間に集まって大きな結果をもたらしてくれた。李斎はこのところ、そんなふうに感じることが多い。ーー過去が現在を作る。ならば、いまが未来作るのだーーたとえ繋がりは見えなくても。

(中略)

過去は現在に繋がっているーー良くも悪くも。

 

最後に琅燦!

最後に琅燦について。そもそも何がしたかったのか。ていうか結局裏切り者は琅燦だけだったてことでいいのか?最初は霜元?臥信?あたりももしかして裏切り者?と勘ぐっていたのですが、そういうわけはなく、阿選と琅燦の裏切りだったってことだよね。それともまだ可能性はあるのか?

普通の謀反なら鎮圧できたはずなのに、琅燦が色々と入れ知恵したせいでこんなに長引いたのだから全て琅燦のせいじゃない?!って思ってしまうのですが…。でも泰麒は味方だと言うし...。まあどこかでしっかり分かると嬉しいな。

 

最後の最後に

グダグダまとまりなく書いたけど、思いを吐き出せてスッキリした!ここしばらくずっと泰麒や驍宗のことを考えすぎていて日常生活に支障が出てたので笑。夢にもすぐ反映されるのだけど、寝てる時に泰麒や驍宗が心配すぎてうなされたからね。好きになりすぎると日常に身が入らなくなるから困る。昔はよく読んだ本の世界に行きたくって、でも行けないのが寂しすぎて辛かったなあ。十二国記にも行けないの悲しすぎる。まあ行けても王にも麒麟にもなれないと思うけども。だから十二国から学んだことを現在の糧にすべきでしょうね。今は「魔性の子」を読んでいる最中。もう一回全巻読み直したい気がする。