私は女の子だから…この後に続く言葉はいい言葉ではない。
例えば、学校に行かせてもらえない、ご飯を少ししかもらえない…そういう言葉が続く。世界の女の子たちの現状を7名の作家や映画監督が綴る。
あらすじ
国際NGOプランのBecause I am a Girlキャンペーンに賛同した作家たちは、それぞれプランの活動地を取材した。7人がそれぞれのやり方で7つの物語を描き上げた。
読んでみて
プランが関わっていることは知っていたのだけど、がっつり関わっていることは知らなかったので読んでみて驚いた。ちょうどプランに寄付していたので、現地はどういう状況でどういったことに寄付金が使われているのか、実際に行った人たちの文章を読めてとても参考になった。
それに角田光代さんが訳していて、訳者でもあるんだ?!と思っていたらそういうわけではなくって、どうしても届けなくてはいけなかったからこそ翻訳をしたことが分かった。角田さんも実際にアフリカのマリやインドに行かれた経験を少し書かれている。今まではあまり知らなかったのだけれど、角田光代さんの本ももう少し読んでいきたいと思った。
7つの物語の舞台になった地域を紹介していく。
「彼女の夢」ティム・ブッチャー シエラレオネ
「店を売る女」デボラ・モガー ガーナ
「卵巣ルーレット」キャシー・レット ブラジル
「チェンジ」マリー・フィリップス ウガンダ
シエラレオネ、ガーナ、トーゴは地理的に近く、西アフリカにある国だ。
一方、ウガンダは東アフリカにある。
ブラジル、ドミニカ共和国は中南米、カンボジアは東南アジアにある。
知っていると言えるのはブラジルとカンボジアくらいであとの国のことは詳しくは知らなかった。いい機会だったので色々と調べて見た。ちょうどチママンダさんの本も読んでいてすごく気に入ったのでアフリカ系の作家さんも読んでいきたいと思う。アフリカっていう一括りじゃなくってそれぞれの国を知れるようになったらいいな。
「道の歌」
一人の少女・アドジョの話。彼女の弟は人買いによって他国に連れてかれてしまった。戻って来るかも分からない。でも母親はきっと立派になって戻ってくると信じている。
トーゴは貧しいけれど、ナイジェリアは栄えているからと行って連れてかれた弟たち。そんな!と思ってしまうけれど、そうしないと生きていけないくらい貧しい状況だったのだろうな…。
アドジョも学校にはもう行けない。例え勉強ができたとしてもそれで稼ぐことはできないから。普段私たちがいる地域とは全然違う環境にいるのだと実感する。日本なら賢ければ道が開ける。なのにアドジョがいるところでその道がまずない。生まれたところが貧しければ、何かよっぽど運が良くない限りは抜け出せない。例え多少良くなったとしても、経済や政治や災害やそういったことでまた元に戻ってしまうことだってある。
そんな苦難の中、最後にアドジョがたどり着いた考えが素晴らしい。
いきたいところに向かう道がなければ、自分の道を自分で作らないといけないの。
「彼女の夢」
戦争によって傷つけられた少女・ベンドゥーを描く。戦争は既に終わり、ベンドゥーは新たな道を歩んでいる。自分で働いて自分の部屋を持って、そして学校に行く。
でも戦争の傷跡は残る。強いものが弱いものを支配して傷つける。それが繰り返されるのが戦争だと思う。それは敵同士だけではなく味方同士でも。その中で子どもで女であったベンドゥーがどう扱われるのかは分かりきっている。
偉い人が始めた戦いのせいで最も犠牲を強いられるのは最も弱いもの。そしてそれは戦争が終わったって終わらない。戦争中は非常時なんだから、終わってからじゃないと向き合うことさえできないんだから。
すごく悲しくなってしまう。
戦争中にずっと裸足だったため足が横に広がってしまい、「象の足!」とからかわれてしまう描写も悲しい。裸足でずっといるとそうなってしまうなんて知らなかった。そして戦争にさほど巻き込まれずにすんだ子どもたちからそう言われるなんて!
女の子のイニシエーションが女性性器切除というのもひどい。それを子どもたちが誇りに思っているのも辛い。そうしている社会が怖い。
「アフリカでは年長者が一番わかっている」というフレーズが何度も出てくる。これはどこの国でも一緒なのだな…、と。年長者を敬うことと、年長者に対して従順になることは違うのに。
ベンドゥーの言葉が心に残る。
そしてアフリカ中の女の子たちは、肉体的暴行を従順に受け入れるよう求められている。性器の一部だけじゃない、自分の運命を操る力すら、他者に切り取らせよと命じられているのだ。母親や祖母が、それに耐えてきたからという理由で。
そんなの、違う、まちがっているとベンドゥーは心の中で言った。伝統というものはたしかにある、でも、だれかが都合よく解釈した伝統をかんたんに受け入れては行けない。私はもう同じあやまちを犯さないだろうと彼女は思った。悪魔に立ち向かうだろうと。
店を運ぶ女
これは物語っぽかった!作者が実際に女の子たちとあって、そこから話を聞いた内容を織り交ぜた物語らしい。
途中まで夫ひどいなと思っていたら「ええー?!」となってしまった。長女のグレースが妊娠してしまったのもなんとも言えない。
でもこの物語は恐らくガーナの日常を丁寧に描いた作品なんだと思う。だからこそ物語に引き込まれたんだと思う。私もアーネスティンと一緒にガーナにいて、市場に行ったり、仕事をしたりしている気持ちになれた。そうすると私にとってガーナはもう遠い国じゃなくなるんだよね。少なくとも今後はガーナのことを聞くときっとアーネスティンの暮らしを思い出すと思う。それが全てではないのは分かるけどもね。こういうのは本の力だと思う。
ちなみにガーナは「世界の恋愛&セックス」でも特集されていたので観てみると恋愛観や結婚観が分かるよ!
卵巣ルーレット
今度はブラジルのお話。題名がなかなかに衝撃がある!
作者のユーモアを交えながら描いていて読みやすい。卵巣ルーレットというのは、まあそのままの意味なんだけれど、避妊薬も避妊具も簡単には手に入らないから10代で妊娠してしまうことが多いため、妊娠するかしないかはルーレットということ。
12歳や14歳の時に妊娠した姉妹が出てくる。ボーイフレンドは避妊具をつけるのを拒むけれど、子どもができるといなくなる。何の責任も取らないし取らなくてもいいらしい。
若くして妊娠すると貧困になる。食い扶持が増えるのに、妊娠した女の子は学校を辞めさせられてしまうし、そもそも若い母親もまだ子どもなんだから大金を稼ぐことなんてできない。そしてそうなると売春しかなくなる。なんて悪循環。
そしてさらに最悪なのが売春ツアーがあるということ。それも子どもの!しかも低年齢化していて8歳や9歳の子も。なんというか絶句しかない。ここに来る観光客は全員捕まって出てこないで欲しい。とにかく最悪な現実。
悪循環にしかならないのに「どうして性交渉してしまうのか?」という疑問がよぎる。それもちゃんと描かれている。男性優位社会のせいで、女の子たちの自尊心は低く、孤立してしまうのが怖いというのが一因にあるよう。女の子に性交渉をしないように言うよりも男の子側に言った方がすごく効果があると思う。でも大人たちがまずそれをやめたくないだろうし、そういう大人たちが権力を握っているからそこまで辿り着かないんだろうな…。
どの国でも避妊具をつけてくれない男性は最低なので別れた方がいいのは共通認識だな…。そういう人と付き合っている人は別れましょう。
あとカトリックだから中絶を選択でいないっていうのも問題すぎる。キャシー・レットが書いていることに一言一句同意できるのでぜひ読んで欲しい。
あるカンボジア人の歌
これはなんというか…悲しい話だった。ドキュメンタリー風ではなく、フィクッションっぽさが強いのだけど、でもカンボジアの暮らしを丁寧に描いていて、東南アジアにいる気持ちになれる話だった。空気感を表現するのがうまいと思う。
物語にもすんなり入れるし、背景には戦争もある。
最後の部分が心に沁みる。
彼はもう、ブラックホールに吸いこまれる、重力のない塵みたいに過去を消したいとは思っていなかった。自身の内に過去をとどめておきたかった。そうして過去を抱えたまま、古いブッタ像の前の、香炉に残るあたたかい灰みたいに、過ぎゆく日々を静かに送りたかった。
チェンジ
この物語にはプランからの返答もあるので、それが今までの物語とはちょっと違っている。
ウガンダに来て、当事者たちと会っていくうちに色々な感情が芽生える。その過程が丁寧に描かれていて、自分も実際に行ったら同じように感じるだろうと思った。プランがやっていることは素晴らしいし、長期的な目線で見る必要があるけれど、目の前で困っている人がいたらどうしても何か助けたいと思ってしまう。プランにいる人たちの方が強く思っている気持ちだってことは分かるんだけども。それくらい衝撃的だったと言うことだと思う。
生徒と関係を持つ教師が多いらしく、そうなった場合はほかの学校に異動になるらしいんだけど、これって…日本もじゃない??となりました。日本って進んでいるところとそうじゃないところが混在していて、特に子どもや女性の権利が蔑ろにされているよね。GDP高い日本もそうだよって伝えたら驚かれそう…。
あと家庭内暴力は各家庭の夫婦間で解決すべき問題だと思われているらしくって、女性が生きるのに辛すぎる環境だと思う。
チェンジを書いたマリーへの返答もすごい。お金が全ての解決にはならない、とはっきり書いている。プランがやっている活動はどれも素晴らしくて、人々を支援している。返答を書いたサブハドラ・ベルベースも女性事務所長として、戦っている。その地域でその地位に就く初めての女性というのがどれだけ大変か!でもきっと、一緒に働いている女性は、「女の子だから」という理由で役職に就けないことはないと実感できると思う。とてもすごいことだと思う。
送金
ドミニカ共和国出身のエレナが主人公。物語の中で、一番日本に近いように感じた。大学まで行けた少女と行けなかった少女の差。そして学力のない女性がお金を稼ぐ方法。
日本にだって大学に行きたくても行けない人はいる。奨学金はあるけれどほとんどが貸与だし、給付をもらうためには選抜を受ける必要がある。実家から通えて生活費を稼がなくてもいいなら大学に行けるけれど、そうじゃないとなかなか難しかったりすると思う。
エレナはもちろん努力したけれど、でもレナータはその機会さえ与えられなかった。ずっと家や暮らしや町から出て行こうとしていたエレナが、また戻って来る。立派な家を建てるための送金ではなく、見返りを期待しない送金に辿り着く。
↓こちらにプランに寄付を始めた経緯を書いているよ↓