あらすじ
時田翼32歳。九州の田舎で父と二人暮らし。ある時、隣人の老婆がゆずを盗む現場を押さえろと父に言われるがー!?
読んでみて
去年のナツイチで見かけてから気になっていた作品。
夏には読めなかったしなんなら年が変わってしまったけれどやっと読めてよかった。
あんまり辛くはならないけれど、それそれの登場人物の悩みに共感できて最後は温かくなる物語だった。
人が死んだり殺されたり差別されたりする本じゃなくてこういう本を読むと読後感がいい。めちゃくちゃ気持ちは揺さぶられないけれど共感もできるし希望もある。
精神衛生上はもっと普通(?)の本を読んだ方がいいかもしれない。あと人は死ぬけどアガサ・クリスティーを読むと気持ちが落ち着くよね。私だけ?
32歳の翼が主人公。
世間一般で言われる「男らしく」ない翼。昔はそれでいじめられたりしたけれど、今はそんな自分を認めてくれる人もいる。
飲み会のお酌を撲滅したいと思っていて、そのために出世したいと考えている。
高齢な父がいて、母は離婚して家を出てしまっているため自分がしっかりしないといけないと思っている。
そして隣人の孫・小柳レモンもおばあちゃんと再会するけれど介護がうまくできない。
それは当たり前だよ〜と思う。医療はプロにやってもらうじゃん?教育もプロじゃん?介護もプロがやるべきだよ。
仕事だからこそできることがあるからね。
翼のお母さんは自分がやりたいことを決めて実際に行動に移したのがすごい。でも翼が自分から会いに行かないっていうルールを決めてたのは謎だったけれど…。離婚して家を出ることがなぜ子どもも捨てることとイコールなのか分からない。
別れたとしても子どもに会ってもいいし元夫に会ってもいいのに。ただ、そこがなあなあになってしまっていたら、結局元夫の世話をし続けてしまうことになったかもしれないので縁を切るくらいがよかったのかもしれない。
親友の鉄腕は婚約相手がいるけれど家族からは反対されている。昔ながらの家で婚約者がいびられる。最初はそんなところに婚約者連れて行くなよ…という感じだったけれど最後の最後がカッコよすぎた!はっきり言う婚約者もよかった!かっこいい。
あと職場の女の子は翼に失礼だな〜と思ってしまった。少なくとももっと自分から行動すればよかったのに。
こういう恋愛に慣れていない登場人物って総じて自分から行動しないよね…。まあ自分から行動しないから恋愛に発展しなくて慣れていないのだと思うけど…。
行動する=告白するわけじゃなくて、告白までしなくても好意を持っているってことを表していけば相手も多少なりとも好意を持っていたら返してくれると思うけど。そこで手応えがなかったらもっとはっきり言うか諦めるかすればいいと思う。
この作品を読んでてこれってフェミニズムじゃん!と思った。女性はずっと立って宴会の準備をして男性はずっと座る、母が転んでも助けてあげない父、ずっと母を頼り続けた結果捨てられてしまった父、結婚をしないといけないから打算的に考える女性たち…。
フェミニズムだけじゃなくてジェンダー自体や既存の慣習とかに疑問を投げかけている作品だと思う。