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グレイス・イヤー

著者の方の名前がキム・リゲットさんという方で、私はてっきり韓国の方だと思っていたので現代のフェミニズム小説なのかと思っていたら全く違って読んでみてびっくり!

私たちがいる現代と全く違う世界観のディストピア小説でした〜!

 

あらすじ

ティアニーが住んでいるガーナー郡では少女たちには魔力があると信じられていた。その魔力とは男性を誘惑したり妻たちを嫉妬に狂わせる魔力のこと。その魔力が開花するのが16歳であるため、16歳の少女たちは住みなれた町からも家族からも離れて少女たちだけでキャンプで1年間を過ごす。この風習について語れることは禁じられているため、キャンプを経験するまで何が待ち受けるのかは分からなかった。ただ、戻ってきた少女たちの様子を見ると何かがあったことは明らかで、少女の人数も何人も減っているーーー。ティアニーはキャンプに行く年齢になりーーー。

 

読んでみて

とにかくおもしろかった。辛い内容なのだけれど、すごく引き込まれてしまった。現代と色々違うし分からないことも多いのだけれど、読み始めると一体どんな世界なのかどんどん気になってしまって読むのが止まらなくなってしまう。

すぐにキャンプに行くのかと思ったらそうではなくて、序盤はティアニーたちが育って世界がどんな世界でどんな暮らしをしていて人々がどう生きているのかが描かれている。ティアニーを通して見るこの世界はかなり歪で間違っているように思える。そして希望も何もなく助けてくれる人もいないように感じる。

「少女たちには魔力がある」と信じられているならもっと恐れるはずでは?と思うのだが、魔力があるのは期間限定であるため恐れられてはいない。女性の扱いは悪く、女性に人権はない。女性は結婚して子どもを産むこと、男児を産むことを求められるが、結婚相手は男性側だけで決まる。しかも16歳になる時に村の男性がみんな集まって話し合うらしい。結婚する側の男性と女性の父親と全体の人数によって決まる。相手が高齢の場合もある。不妊の場合は離婚されるし、何か問題がなかったとしても夫側から難癖をつけられて絞首刑にされることもある。

決まった髪型、決まったリボンの色。裸足で走ったり庭いじりをすることも女性になると禁じられる。

ティアニーの家は姉妹が多いがみんな女の子ばかり。ティアニーの父はティアニーを少年のように色々と生きる術を教えてくれた。だからこそティアニーは妻になんかなりたくなくて、過酷だけれど一人で生きることができる野良仕事をしたいと思っていた。ガーナー郡では合わないような自立心を持ったティアニー。そんな彼女を応援したくなってしまう。


キャンプには本当に女の子たちのみで暮らすということで、それならみんなで反抗すれば良くない?と安易に考えていたのだけれどそう簡単にはいかない。

そもそも少女たちがいるキャンプの外には少女たちを狩る猟師がいる。残酷すぎる世界で彼女たちは生きている。男性に支配されるための制度。そのためなら少女たちが犠牲になっても構わないと思っている。

また、今まで男性社会の中で抑圧されてきて、急に自分達でなんでも決めろと言われら戸惑うのも無理はない。何しろリボンの色でさえ決まっていたのだから。女性が主体性を持つのを禁止する社会でこのキャンプだけは主体的に生きることができる。だけれど今までの育った環境の価値観は変わらない。些細なことで絞首刑にしようとする。憎むべきは他の女の子ではないのにそうなってしまうのがとても悲しい。

それにティアニーは村の価値観から抜け出しているが、それは自分は周りとは違う、周りよりも自分の方が優れていると思っている部分もある。だからこそティアニーが正論を言っても反発する人が出てくる。例え真実を言おうとなかなか味方につかないのは仕方ないのだろうと思う。でも辛いけど!

はみ出し者のティアニーよりも村の中でちゃんと自分の立ち位置を理解して生きている人の方が普通であるわけだし。なので最初は女の子同士の戦いがなかなかに辛かった。

それも原因があるのだけど、その原因も卑劣すぎてね…。

 

 

 

以下ちょっとネタバレがあり↓

 

 


ティアニーと猟師。最初はこれどうなるんだ?と思っていたら案の定。もう絶対やめた方がいいけども!でも惹かれちゃうのは仕方ないのかもしれないけども!

いつ終わりがくるのかヒヤヒヤだったし、助けてくれたとはいえやっぱりそれを生業にしているの無理だよー。生きるためとはいえ。まあでもそもそもティアニーははみ出し者なわけだから、それくらい違っていた方がよかったのかな。

ティアニーを取り巻く男性は何人か出てくるけれど、やはり圧倒的にマイケルが好印象だったかな!ストーカーは論外だし。マイケルもいつ変貌するのか戦線恐々としていたのだけど…。マイケル、お前ってやつは…!


とにかくティアニーが何度も苦境を乗り越えて強くなっていく姿はかっこいい。ティアニーから勇気をもらえる。はみ出し者で自分以外に誰も味方がいないと思っていた少女が味方を作っていく。人との関わり方を学ぶ。人を許す。自暴自棄にならずにこの世界で生きていくことを決めて、守るべきものを守ろうとする。そうしていくことでガーナー郡に戻ってきた時には今まで見えていなかったものが見えていく。この変化がすごい。私たち読者も見えていなかったことが見えていく。誰も抵抗していなかったわけじゃない。男たちに踊らされていたわけじゃない。男性がみんな支配的なわけじゃない。変えようと思っている人たちがいる。少しずつ。

キャンプの終わりに少女達は次の少女達が自分達よりも楽をしないようにと全てを壊す。そのサイクルがあまりにも悲しくて。それが変わっていったのが本当に嬉しかった。

ただ、やはり女性への扱い、少女たちへの扱いは酷すぎて。そんなことを自分の父親だったり知り合いだったりがやっていると思うと…。

 

 


ここからネタバレなしです〜。


最初に全て全貌が明かされるわけではないので、この世界とは?果たしてキャンプとは?どこまでが本当でどこまでが嘘なのか?真実はどこなのか?という謎解き的な要素も含まれていて最後まですぐに読めてしまった。

読んでいて思い出したのは「女の国の門」。こちらと比べるとグレイス・イヤーの方がまだ希望がある感じがする。恋愛という面においても。

今作は人と人との関わりがとても大事だと教えてくれる本だと感じた。


著者のあとがきで今作を描こうと思ったきっかけが一人の少女だったのもとても印象深かった。その少女を品定めするかのように見る男性、そして女性からの嫉妬。少女達の魔力が「男性を誘惑したり妻たちを嫉妬に狂わせる魔力」であり、男性だけではなく妻達にも影響があるしているのが興味深い。どちらも少女が原因のものではないのにね。若い女性に嫉妬するというのも結局は男性の社会構造に組み込まれているからだと思う。私はあんまり少女たちに嫉妬した経験はない。どちらかというと守らなければいけない存在という感じが強いのだよね。職業的にもそうだし。ただ、私ももっとこれくらい自由に過ごせばよかったな、色々経験すればよかったな、もっと青春楽しみたかったなとか思うことはある。でもまあそれは今からでもできるので。今が一番若いのだから!と思うようにしている。実際に少女の時は色々自由が効かなくて早く大人になりたいと思っていたので若いことがいいことではないのを知っているし。でも少女というか若さを羨ましく思うときはいつか来るのだろうと思ったりはする。男性の目線を独り占めしているとかいう理由ではなくて、女性男性問わず若さに対して。


今作は「侍女の物語」×「蠅の王」と「ハンガー・ゲーム」と言われているようで、「蠅の王」知らなかったので読んでみたいな。あと「声の物語」という作品も訳者あとがきに紹介されていておもしろそうだった。


↓本文で心に残った部分を抜粋。↓

それは意味のない、虚しい試みに見えるかもしれない。男たちはまったく気づかないかもしれない。でもわたしたちはこれを彼らのためにやっているんじゃない。わたしたちのため……アウトスカーツの女も、ガーナーの女も、老いも若きも、妻も労働者もひっくるめたみんなのためにやっている。わたしたちが足並みをそろえて帰ってきた姿を見て、彼らはきっとそこに漂う変化に気づくはずだ。