【宮部みゆき】あやかし草紙
とうとう!とうとう第一部が完結したよー!まさかおちかが!ああなって、そして富次郎がああなるなんてー!!!やっぱり三島屋変調百物語はおもしろい!
あらすじ
三島屋変調百物語の5冊目になる「あやかし草紙」。百物語の聞き手であるおちかが前回大事な人を失い、その代わりに貸本屋である瓢箪古堂の若旦那・勘一と親しくなっていく。三島屋の次男坊・富次郎も語り手に加わり、聞いた語りを絵に描くことになりーーー?少しずつ変わっていく百物語を取り囲む人々。百物語を中心に人生は進んでいくーー。
第一話 開けずの間
あらすじ
どんぶり飯屋をやっている平吉は、生家が根絶してしまったという話を話していく。それはある神様を招いてしまったからでーーー。
一番怖かったのがこの話。惨たらしく背筋が凍るような話だった。何が怖いって妖じゃなくて、人の怖さがね…。平吉の一家に振りかかった災難は、結局家族同士の妬み嫉みが原因だったというね。なんとも言えない。でも平吉一家が特に意地汚く仲が悪かったわけではないんだよね。代償を差し出せばなんでも願いを叶えてくれることができるら、きっとその欲望に押し流されてしまうんだろう。
だって普通なら少し頭を冷やすこともできただろうし、どうにもできなさに葛藤しながらも仕方がないことだとあきらめもついたかもしれない。ところが目と鼻の先に声をかければなんでも願いを叶えてくれる、しかもそれは自分の気に食わない人間を代償にしても良い。そんなことになったら我先にとやろうとする人が一体この世の中にはどれだけいるのかーーー。絶対にたくさんいるよね。どうしても叶いたい願いがある人はいくらでもいる。側からみても願いが叶って欲しいと思える人も多いだろう。そもそも、おゆうだって子どもを取られて離縁されて、どうにかならないかと思える相手だよ。でもだからって、なんでも願いが叶ったらダメなんだなあ…。この世界はそういうふうにできている、というか、叶わないからこそ、どうしようもないからこそ、絶望しながらこそ、生きていかないといけないのが人間なんだろうな。
私も嫌なことたくさんあるけどさ、その時はこんなに嫌な思いしているのは自分だけなような感じがするけれどさ、そんな人世の中にはいくらでもいるんだよね。そして自分より辛い境遇の人も星の数程いるんだよ。もちろんだからって自分の辛さが辛くないってことではなくて。何もかもうまく行って暮らせたら一番良いけれど、そうはいかないのがこの世というか。この世の常というか。生きることは辛いことの連続なのだよ。ああ、そう思うとこの世はなんて無情なんだろう。
でもそんな話でも、息残った平吉以外に甥っ子がお坊さんになって一家を弔っている、平吉を守護している。人間の醜い部分が多い話だったけれど、最後の最後に少しだけ心があったかくなった。もちろん猫丸屋の女将やどんぶりや親父、今の舅もすごく素敵な人だったよ。そういう人情があったから平吉は少しずつ良い方向に向かっていけてたのかもしれない。
第二話 だんまり姫
あらすじ
もんも声を持つおせい。「もんも」というのは人ならぬ化け物のことを言う。おせいはそのもんも声で「もんも」を呼び出すことができるのだ。ひょんな偶然からお城で奉公することになったおせいは、そのもんも声で若くして亡くなってしまったお次様を呼んでしまう。お次様は今のお殿様の異母兄弟であり、今は城を守っているのだと言うがーーー?
おもしろかった!微笑ましいというか、怖いものはあんまり出てこないので安心して読めた話。子どももたくさん出てきて可愛らしかった。今はお婆さんになってしまったおせいが、若くして奮闘する姿も微笑ましい。おせいの幼少期から、お城への奉公まで丁寧におせいの一生が描かれている。いいドラマだと思う。意地悪な宇乃殿と仲良くなったりとかねー。
お次様であった一国様は、強がってはいるところがなんとも可愛らしい。お城の本当の領主、と言うところも胸に打たれる。けれども一国様の亡くなった背景には悲しき理由があって。うーーーんという感じ。分からなくはないけれどお祖父さん!!!と思ってしまう。
こういうところって武士だよなって。自分の孫より主君が大事っていうね。分からなくないが、他に案はなかったのか?というね。短楽的すぎるよー。
それにうまい感じで終わったのはすごく良かったんだけどさ…一国様はずっと周遊するわけじゃん。でもずっとっていつまで?劇団がいなくなったら?違う題目に変わってしまったら?それをまだ子どもの年齢の子に課してしまうのってどうなんだろうって…。もう亡くなっているわけだし子どもとか関係ないのかもしれないけどさー。一国様は周りの大人や政治のせいで命を絶たれて、なんというか…大人に振り回されてきたのにさーそれってひどくないかな?!っていうのが残ってしまう。心配だよね。きっと一国様ならなんとかできるとは思うんだけどさ。そう思うしかないよね!!でも一番微笑ましくみれた作品だった。
おせいの何かあったときは図太くて肝が座っている性格も良かった!良い性格!好きだなあ。なんというかさっぱりしてるのだね。「お城で問題があったらもんもを呼んで逃げよう」とか考えているのはおもしろい。実際、色んな「もんも」に会ったから肝が座ったんだろうね〜。霊力があるのとはまた違うかもしれないけど、同じような感じだよね。
第三話 面の家
あらすじ
三島屋に飛び込みでやってきた薄汚い小娘・お種。黒白の間で語れば厄払いができると思ってやってきたが、当てが外れて話さずに帰ってしまう。その後、長屋の差配さんに連れられて再びやってきたお種は、お面の家の話をする。性根が曲がった者の方がお面を捕まえてやすいと言われ雇われたお種だがーーー?
これは怖いというか不思議な話。お種にとってはよっぽど怖かったと思うし、実際こんな目にあったら怖いんだろうけど、読んでいるこちらはそんなに怖くないというね。というか、お種が改心するための話、みたいなね。
でもこの世のどこかに面の家があって守っているとしたら本当に大変だろうね〜。そもそも面はなんなのか、どこからきたのか、誰が作ったのか、いつからいるのか、とかなんとか気になることはたくさんあるけども。ずっと守ってなきゃいけなかったら大変な仕事だし、現代だったらどんな風に変わってるのか。大きい厄災はこのお面たちのせいなのかな、と思ったり。最後のお勝が櫛をあげるところはよかった!いつもはおちかの後ろにいるんだけれど、お勝の考えで動くってすごく良い。お勝が守り手なんだなって実感する。なんでも知ってる不思議な人だよね。ものすごく頼りになるし。
第四話 あやかし草紙
あらすじ
貸本屋・瓢箪古堂の若旦那・勘一がまだひよっこだった頃、写本の内職を頼んでいた元・武士である栫井十兵衛という浪人がいた。借金があった栫井十兵衛は内職をしながら娘・花枝とともに細々と暮らしていた。そんな栫井親子に1回の写本で100両という破格の依頼がやってくるが、それはなにやら面妖でーーー?
これはおもしろいことに瓢箪古堂の若旦那・勘一が語り手なんだけども、ところが最後までは語らないのね。そしてその間に奇特な人生を送ったお婆さんの不思議な話が挟まっている。勘一の話の方が本筋だから、こちらのお婆さんの話は簡潔ではあるのだけれど、こちらも中々おもしろい。
こういう話ってたまに聞いたりするよね?有名なのかな?不思議だけれど。同じような人に好かれるのだろうか…それとも同じように感じるのだろうか?私は今のところ恋人がみんなソックリってことはないけどね笑。
瓢箪古堂さんのお話はなんとなーく分かるから、勘一がなにを隠しているのかもなんとなーく分かる。勘一の話で面白いなと思ったのが、栫井十兵衛が、自分が死ぬまでにちゃんと後妻を娶っていたことがね。それも娘の花枝を任せても良いと思える相手をね。なんていうか、昔って結婚とか婚姻が本当に生きていくために必要なものっていう感じがありありとある。いや、現代でも栫井十兵衛みたいに思う人はいるかもだけどさ、中々難しくない?そう思うと、昔の方が再婚や後妻のハードルって低かったんだろうなあ。お婆さんも何回も再婚してるわけだしね。生きるために再婚する、1人より2人の方が生きていきやすい、大勢で子どもを育てた方が良いっていうね。でもそれはそれで大変だよなーと思う。主人が代替わりしたらそこは全く違うお店になるわけじゃん。例え実家でも戻ってきたら肩身が狭い。そこはもう実家じゃなくて、兄弟夫婦の家になるわけだもんね〜。はあー。まだ結婚に緩い時代に生まれてよかったー。したい人はからしたらハードルは上がったのかもしれないけど、今の方が絶対良い!
結婚の話はここら辺にして、このお話は、本当に三島屋変調百物語シリーズにとってすごく重要というか節目のお話なんだよね。以下完全なるネタバレになるけども、
なんとおちかが!!!気になっていた瓢箪古堂の勘一にプロポーズしにいく回なの!!本当にね、おちかが腹をくくる場面が本当によかった。
お勝がねー「よっぽどの覚悟がないと聞き出すことはできないと思う」っていう旨をおちかに言うのね、それでおちかは考えるのだけど、その結果が一緒に人生を歩むことを決めること、だったんだよね。
以下引用です。
「だからわたし、覚悟してお尋ねしています。
よっぽどの覚悟がなくては聞き出せない。お勝もそう言っていた。
ゆっくりゆっくり、空を噛むように口を開き直して、ようやく勘一は問い返してきた。
「どんな覚悟でございますか?」
おちかは答えた。「見届ける覚悟です。」
瓢箪古堂の勘一のそばにいて、彼の人生をつぶさに見守る。
「身届けられるよう、わたしを嫁にもらってください。お願いいたします。」
はあ〜〜〜本当によかった。2人らしくて良き。最初のおちかを知っているからこそここまで来れたのが感動ものだし、あのおちかがこんな決断をできるほど百物語を通して成長してたんだな、と思うとそれも感動する。でもすごく自然なんだよね!変にこじつけているわけではなく、読者として自然とこの成り行きを当たり前に受け入れられるというか。
最初の頃のおちかは果たして傷が癒えることがあるのが、自分の人生にまた向き合えることができるのか、全然見通しが立てれなかった。でもちょっとずつ、ちょっとずつ色んな人に会って、色んな話聞いて、百物語に終わらない人との関係を築いて、哀しいこともあったけど、それでも元気をもらって、そして本当に本当におちかにとって大事な人を見つけて、その人のためならもう一度自分の人生をやり直しても良いと思える人を見つけたんだよ!!!あの結婚なんて恋愛なんて一生しないってなっていたおちかが。自分が幸せになるといなくなってしまった人のことを思って罪悪感を持っていたあのおちかが!起こった出来事は変えられないしなかったことにもできないけれど、それでも前を向いて瓢箪古堂さんと一緒に歩いて行こうとしている!!!本当に感動した〜。おちかがいなくなるのは残念だけど、おちかがいなくなることで三島屋変調百物語の雰囲気が変わってしまうのは残念だけど、でも、おちかが前を向いて新しく歩いていくならそれを応援しないと!って思えたんだよ。本当に宮部みゆきはすごい。次男坊の富次郎も憎めないから良いんだけどねー。果たして今後はどうなっていくのか?
第五話 金目の猫
あらすじ
三島屋の後取り息子である伊一郎が、昔出会った金目の猫の話を語っていく。聞き手は次男坊の富次郎で、兄弟水入らずお酒も入れてしっぽりと昔語をしていく。富次郎に懐いていた猫だったにも関わらず、当の富次郎はすっかり忘れていてーーー。
これも怖いと言うかそういいう感じではなかった。このお話はおちかが全然出てこなくて、語り手が長男・伊一郎、聞き手が富次郎という、もう百物語は富次郎の代になっちゃったのかーという悲しき感じ。
物語自体は妖ではないという、そういう意味では人間って怖いね、という話。でも何より怖いのはDV男に期待してしまうことかも。ダメな人間とはきっぱりすっきり別れるのが大事。じゃないと引きずられちゃうからね。
富次郎が記憶を封印していたっていうのはすごく分かる!!!本当に悲しい記憶ってなかったことにしちゃうよね。特に子どもの頃って。逆にすごく怖かった思い出とかは忘れられないような気もする。富次郎は今大人になったからこそ思い出しても大丈夫だったんだよね。
ここでも再び富次郎が前の奉公先で怪我を負った経緯が出てくるんだけど、三島屋の人たちはみんな富次郎の喧嘩の相手が外腹に生ませた子であって、それを奉公人として雇い入れていることに怒っている。でもこの図ってある意味おちかの生家で一緒に育った松太郎との関係と同じだったんじゃない?と思ってしまう。外腹だけれど主人を父に持っているのにそこで奉公人になるのと、血はないけれど家族として迎えいれたのに実質は奉公人としか扱ってもらえなかった松太郎。2人とも身勝手ではあるけれど、結局は周りが傲慢だったからでは?と思えてくる。つまり周りの人間はこの2人のことを馬鹿にしてるんだよね。だからそういう失礼なことができる。もし三島屋みたいな考え方をおちかの生家でもしていたらまた変わった結末になっていたのでは?と思う。例えどんなに優しくて親切でも馬鹿にされているっていう感覚だけは分かるからね。そこは隠しようがないよ。
でも起こってしまったことは変えられない。最近それを身に染みて感じる。タイムマシンがあれば楽なのになー。失敗するのが怖くて動けなくなっていたけど、何もしないのはより馬鹿らしいから自由に生きて人生を楽しんでいきたい。もちろん自分が怖い人間にはならないようにね。