あらすじ
伝説の魔法の獣たちとともにエルドの山奥に住むサイベルは、突然ある男から王の血を引く赤子タムを育てるように言われー?!
読んでみて
荻原規子先生がお薦めしていた本なので読んでみました〜!
わりと堅苦しい感じの話なのかと思っていたら、そういうわけではなくすごく読みやすかったし物語の続きも気になってあっという間に読んでしまった。
魔法使いの血筋であるサイベル。
彼女は呼び声で伝説の動物たちを呼ぶことができる。そして呼んだ動物だちと一緒に屋敷で一人で住んでいた。
黒猫のモライア、ライオンのギュールス、竜のギルド、隼のター、猪のサイリン、そして黒鳥も。
彼女は一人でもよかったし、自由気ままに暮らしていた。
ところがーーー。
ある時、コーレンという男性が現れる。
彼はサイベルに赤子を育てるように頼む。同じ血を引く赤子を。
遠縁だからって急に赤子を押し付けられるって嫌すぎるな〜と思う。
サイベルの能力を持って生まれるのはその父も祖父も男なんですよ。それで呼び声で近くにいた女性を無理やり連れてきて結婚して子どもを産ませて。それがサイベル。
酷すぎるよね。
サイベルが女性だったからコーレンは頼みに来たのが嫌すぎた。
これが父や祖父だったら絶対に頼みにこなかったじゃん。実際に女性なら育て方知ってるでしょ的なことを言っていて嫌すぎた。
傲慢すぎるのでサイベルには断って欲しかったくらいだよ。まあでも受け入れないと物語が始まらないのでね。
それに最初はサイベルはターに頼んでコーレンのこと殺そうとしてたし。
それでタムを育てることになったんですけど、知識がないサイベルはひっそりと暮らしている物知りなお婆さんを頼ったりして他者と交流を持ち始めるんですよ。私のイメージでは守り人シリーズのトロガイ。
他者って言っても基本はその二人だけなんだけど。でも今まで自分一人で何も不自由ないと思っていたサイベルがタムを育てることで開けていくんですよね。それがすごくいい。本当の母親のようにもなるし本当の娘のようにもなる。誰も血は繋がっていないけれど三世代の家族みたいになる。
でもその平穏もタムが王の血を引くということで壊される。
サイベル目線で見ると争いに意味なんてないんだよね。各々の当事者同士にとっては重要かもしれないけれど外野から見ると全然そんなことない。
なんで争っているのか謎。大事な人を殺されたから黙って引き下がれない、みたいな。そのせいでずっと争いが続いている。
そんな不毛な争いに大事な大事なタムが巻き込まれるなんて最悪すぎる。
でもタムはタムで自分の本当の父親に会いたい。しかもその父親が自分を待っているなら尚更。そして自分が王子ってことも知ってしまったし。
サイベルのことは大事だし、離れたくはないけれど、でも行きたいっていう気持ち。本当にそれが子どもの気持ちだよなって思う。
親離れ、自立っていう部分にも重なっているのだと思うけど。
タムがサイベルと恋仲にならないのもいい。ちょっとトラウマなんですよねー、そういう作品に。
疑似とはいえ親子同士は居心地がいいし安心できるけれど、だからといってそこにずっと留まろうとしないのが健全だと思う。
そして出ていくタムを受け入れるサイベルもいい親だと思う。
まあ読んでいる時はアホみたいな下界に行かずにずっとそこで暮らしなよーーーって思っちゃいましたけどね。それこそ本当にファンタジーだなあと思う。
でもまあ全体で見るとタムはちょっと優しすぎるところはあるけどね笑。サイベルに良すぎる部分はある。
サイベルの父親とかは自分の妻を呼んで手に入れたんだけど、サイベルは逆にミスランに呼ばれてしまう。
この辺りは本当に辛かった。
誘拐婚を思い出した。指輪物語のエルフもそういうことしてたよね〜〜〜。最悪すぎる。
でも!やり返すところは爽快さもあった。それだけではないけど。
ただ、そこから復讐劇になってしまう。
そしてコーレンも利用する。
絶対言った方がいいのに〜〜〜と思いつつ言わない理由もすごくよく分かる。
バレた時にコーレンは怒るけれど、でもサイベルの気持ちの方が私にはすごくよく分かってしまった。言えない相手ってくらい特別なんだから分かってよって。その反面、伝えたら面倒なことになるから言わなかったっていうのも分かる。
自分を自分じゃなくそうとした相手。
その相手がいる限り自分は今までのように生きていられない。でもそれが終わったとしてもきっと今までのようには生きていられないだろう。
相談できればよかったのにね。
大事な人に。相談できるのも強さだから。でもサイベルには難しかった。だって今まで自分一人で対応してきたから。今回も自分で対処することで辛さや悔しさや悲しさから目を逸らしたのだろうな。
とても辛く悲しいことがあると人はそれを誰かに話すことさえできなくなってしまう。
「そんなことがあるものか!愛とはいったいなんだと思っているんだ 大声をあげたり、打ったりするたびに驚いて心から飛び立つ小鳥のようなものだとでも思っているのか?きみはぼくのもとから飛び立つがいい、きみの暗黒の世界へと思うさま高く翔んで行くがいい。しかしぼくはどんなときにもきみの下にいるということがいまにきみにもわかるだろう。どれほど距っていようと、きみを仰いでいるだろう。ぼくの心はきみの心の中にある。あの夜、ぼくの名とともにきみに捧げたはずだ。だからきみはぼくの心の預かり主なのだ。大切にしまっておこうが、萎えしぼませて枯らせようがそれはきみの勝手だ。ぼくにはきみという人がわからない。そしてそんなきみが腹立たしい。ぼくの受けた傷はもはや手のほどこしようもない。だがこの上きみを失ってしまえば、ぼくの内部に疼く空洞を埋めるものはなくなり、きみの名がむなしくこだまするばかりになるだろう」
いや〜〜こんなに愛してくれてる人がいるなんて羨ましいね!
サイベルの復讐劇は強かかっこよかったけどその分犠牲にしたものも多かった。自分自身によって殺されてしまうところだったからね。
ただ、復讐じゃなくてみんなで幸せになる道はないのか、だってタムの父親なんだもの。でもサイベルが我慢して終わるのもそれはそれでおかしいとも感じて、どうすれば一番いいのか分からなかった。サイベルもどういう選択をするのか最後まで分からなくてハラハラドキドキしていた。
復讐はしないって綺麗事言うのもなんか違うし、タムのために我慢するのも違うし、サイベルが悔いのない終わり方をして欲しいと思っていたので、ちょっと悲しさもあったけれど最後の選択はホッとした。逃げたと言われればそれまでだけれど、復讐に走るためには愛する人が多すぎたのだろうな。そして自分のことも。
そして最後にサイリンたちみんなが助けてくれたのもよかった。
ブラモアとライラレン、表裏一体さが人間っぽいなと思う。
ファンタジーだし色々設定もあるけれどサイベルとコーレンの恋愛が主軸になっていてコーレンの一途さが好きだったな。
「巨人グロフは礫を片眼に喰らったが、その眼は裏返り、彼の心の中を見た。グロフはそこに見たものが原因で絶命したのだ」
そしてなんと漫画があるってー!!びっくり!読みたい!!
「コーリング」
妖女サイベルはこちらの荻原先生の本で紹介されてたよ!
感想はこちら!