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【小野不由美】丕緒の鳥 落照の獄

小野不由美丕緒の鳥 落照の獄

十二国記第5巻の丕緒の鳥4編の中の2作品目の落照の獄について感想を書いていくよ〜!


あらすじ

十二国の北にある柳国では、残虐な人殺しが起こり、国府の司刑である瑛庚(えいこう)が裁かなければいけなくなる。市民の間では殺刑(しけい)にするよう声高に叫ばれるが劉王は以前から殺刑を禁じていた。ところが当の劉王は政務に興味を失ってしまったようで瑛庚たちに全てを任せてしまう瑛庚たちは柳が傾いているのを感じながら殺刑を復活させることでの悪影響を考え葛藤するが…!?


読んでみて

4作品のなかでこれが一番重かった!まず犯罪内容が辛い。ここでは詳細は省くけれどとにかく辛い。その部分を読んでいるだけで辛くなる。遺族たちの苦しみや悲しみは計り知れないだろうし、最も重い殺刑にすることで少しでも折り合いをつけて欲しいと思ってしまう。殺刑にしない司法は最低だしクソだし市井で生きている市民のことなんて1ミリも考えてないんだなと思ってしまって仕方ないと思う。

ここでものすごく市民側に私自身も引っ張られていたのだけど、少しずつ国が傾くとどうなるか、ということについても分かってくる。最初は司法がちゃんとしていれば問題ないだろう、と思っていたのだけど、国が傾くというのはそういうのも全部関係なくなるということなんだと徐々に分かってきた。例えばこの前に載っていて丕緒の鳥では、王によって罪なき人や女性というだけで多くの人が虐殺されてしまった。柳国はしっかりした法治国家であり、その基盤がしっかりしているからこそ、まだそこまで国が荒れずにすんでいる

殺刑を法律に沿ってしっかりやるのなら何の問題もないと思う。でも傾いてる国ではそうはいかなくなることが目に見えている殺刑を復活させることで、今後どれだけ影響があるか分からない瑛庚たちの葛藤が私にも理解できて、そうなると殺刑は復活しない方が良い気がしてきた。例え市民たちから非難の声を浴びせられても、司法に対して信用をなくしたとしても、将来罪もない多くの人が殺刑にさけられるよりはいい。殺人犯に対して正当な罰を下せないのは悔しいけれど仕方ない。そう思えてきた。

でも!最後に殺人犯本人に会うことで状況は変わってくる

本当に小野さんはうまいな、と思う。市民の気持ちも瑛庚たちの葛藤も全部丁寧に紡いでいって、読者を置いてきぼりにせずに一緒に登場人物たちの気持ちに添えるようにしてくれる。

瑛庚たちが下した結論は仕方がなかったと思うし、間違ってはいないと思う。ただこの決断によって恐らく良くないことが起こることが示唆されていて、仕方がないのだけど、どうにかできなかったのか、これからどうにかすることができなかったのか、と考えてしまう

 

終わりに

冒頭の部分の瑛庚の娘が言う言葉が重い。

「ーー父さまは人殺しになるの?」

人が人を殺す。例えばそれが法によって定められたことだとしてもそれは変わらない。実際に刑を執行する側は精神的にかなり負担があるらしい。人を殺すのはよくないと言われる、でもそれを仕事でやる、その矛盾に悩まないものはいないし、死刑を支持する側なら彼らのことも考えないといけないと思う。死刑を支持しながら実際に刑を執行する人たちのことを考えないのは自分勝手だと思う。死刑については私自身もなかなか定まらない。実際に死刑があることで罪を犯すことの歯止めにはならないらしい。でも心情的にはそうは思えない部分もある。被害者や遺族のことを考えるとまた変わってくる。難しい