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【上橋菜穂子】狐笛のかなた

上橋菜穂子】狐笛のかなた

上橋菜穂子の1冊完結作品。いい感じにまとまっていてとてもおもしろかった〜!狐が可愛いかったよ。

あらすじ

12歳小夜はある時野犬に追われる子狐を助ける。その時、大きなお屋敷に隠されて住んでいる同年代の少年小春丸と出会う。2人は大人の目をかいくぐって友達として楽しい日々を過ごした。その後、成長した小夜自分の母を知っていると言う兄妹と出会うが、それは長年争っている有路(ゆうじ)ノ一族とか湯来(ゆき)ノ一族との関係にも大きく影響を及ぼすことでーーー?!

 

読んでみて

最初は小春丸小夜恋物語かな?くらいに思ってたのだけど、違った!2人がきっと将来出会ってくっつく感じだ!って思ったんだけどちょっと予想が外れて、なるほど!という感じでした。上橋菜穂子さんは本来の常識では交わることのない人たちの関わりを描く人かな、と思うとそれが今回は霊狐だったのだな、と思う。最後はやっぱそうなるのねー!微笑ましいけど小春丸からみたらちょっと悲しいし寂しいよね!と思う。

日本ではないどこかにある世界なんだけれど、ものすごく丁寧に背景が描かれているから、世界観がとてもしっかりしていて引き込まれた。なんというか言葉が独特で素敵な雰囲気があるんだよね。有路(ゆうじ)ノ一族とか湯来(ゆき)ノ一族とか、森蔭屋敷とか、初めて聞くのだけどどこか懐かしい言葉なんだよね。

呪い呪われるのが当たり前の世界で、でもその土俵から逃れたくても逃れるのは相手を殺すか自分が殺されるしかない。なんというかその一族に生まれた運命、というものに登場人物みんなががんじがらめになっている。例えば久那は、呪者の一族として生まれたために、霊狐を使い魔とするしか自分が生きる道はなかった。そんな久那も初めは殺すのは悲しかった、と思っていたことが分かる。久那の結末は小夜や花乃の違う選択肢だったのではないかとも思う。みんな運命に翻弄されながらも、彼らより前の世代はそれをそのまま踏襲することしかしなかった。新しく切り開こうとは思わなかった。ところが花乃が先駆けとなって少しずつ絡まった運命を解こうとし始める。そしてそれは小夜にも受け継がれ、使い魔としてしか生きることができなかった野火を解放しともに生きることを決める小夜の強い決断春望の英断によって過去から繋がっていた悪しき呪いは断ち切られた

野火が小夜と小春丸が2人で楽しんでいる場面に入れなかったあの寂しさ、辛さ、どうしようもない心細さ。それを思うととても心が悲しくなる。でも、きっと今の野火は小夜と2人幸せなんだろうな、と思うと心が温まる