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文学系心理士が好きなことを徒然なるままに書きまくるブログ。小説、NETFLIX、たまに心理学のことも♪

【宮部みゆき】この世の春

宮部みゆき先生の本を久方ぶりに読みました〜!!!

本当に安定してていい。すごく好き。

 

あらすじ

元作事方組頭・各務数右衛門と娘の多紀は隠居生活を送っていた。二人が住む下野北見藩では、北見藩藩主・重興が病気のために隠居することになる。そのことで重興から重用されていた御用人頭・伊東成孝は失脚してしまう!隠居生活を送っていた二人には関係のないことだと思っていたが、伊東成孝の嫡男の乳母が、幼い嫡男を救って欲しいとやってくる!驚く多紀だがーーー!?

 

読んでみて

宮部みゆき先生の作家30周年に出された本作

私は宮部みゆきが描く時代小説が大好きなので、本当に楽しみにしていたし、実際楽しく読ませてもらった。まあ物語としては楽しい展開はないけれども。


前情報は何もなく読み始めたので、最初はどういう展開になるのか全く読めなかった。主人公である多紀も同じで、何が何だか分からない状況。私も多紀と一緒に混乱していた。

上中下があるのだけど、上を結構読んでもまだ話が掴めない。謎だらけという状況。少しずつ状況が分かっても、さらに新たな謎が出てくる。

怪異なのか病気なのかさえも分からないし、黒幕も分からないし、この状況を打開できるのかも分からない。

そんな分からない状況の中で、読者も多紀たちと一緒に奮闘している気持ちになれる。


何よりも登場人物たちが魅力的だと思う。

多紀を慕う田島半十郎、何事も筋を通す石野織部、藩主を救おうと奮闘する若き医師・白田登。そして女中のお鈴におごう、寒吉。

暗く怖い雰囲気を、お鈴たちは和らげてくる。

宮部みゆき作品では子どもが出てくることが多いように思う。そして子どもを大事にする。

以前にも読んだ「孤宿の人」でもそうだった。


でも今回は、子どもが悲しい目にも合う。

いやー、悲しい。本当に悲しい。

子どもを傷つけたり痛めつけたりする人間は本当に最悪だと思う。

親たちの気持ちを考えると本当に辛い。

 

 

 

↓以下ネタバレあり↓

今作は前情報をなしで読み始めたのだけれど、びっくりすることに同じ時期に同じような内容の本を何冊か読んでいて、自分でもなかなかに驚いた。

「ぼくと<ジョージ>」「女の国の門」「この世の春」の3冊に共通することがある。それは別人格が出てくること。病名で言うと解離性同一性障害

「ぼくと<ジョージ>」だけは、出てくるのは知っていたけれど他の2冊に関しては全く知らなかったので読んでいてびっくりしてしまった。

でも小説としてのインパクトはあるだろうから題材自体は多そうではあるけれど。


ただ、描き方はそれぞれ違って、「ぼくと<ジョージ>」はイマジナリーフレンドのような思春期の葛藤として、「女の国の門」は感情を出さずに厳しい判断をするための違う自分として。どちらも今作のように記憶がなくなって覚えていない、という状況ではなかった。なので微妙には違うのだけどね。


そう思うと重興が一番重いし、一番困っているように思う。

江戸時代は精神疾患に関してどのようにしていたのかあまり知識がないけれど、今のように確立されていない状況では怪異としてみなされてしまうことが多かったのかもしれない。

宮部みゆきの作品自体が、怪異が怪異として出てくる作品も多いため、重興が一体どういう状況なのか謎が明かされるまでは分からなかった。


実際の真相は本当に辛いし悲しい。

父親も被害者ということが分かって、それは救われたけれど、現実世界ではそうではないことが多いよな、とも感じた。

一番身近な人や知り合いが加害者になることが圧倒的に多い。それに何かあると察していて介入できなかった重興の母親も虐待に加担していたと捉えられてしまうとも思う。


実際の悪者を別に作るところが宮部みゆきらしいというか。どこかに希望を残しておくところが。


あとは多紀と重興は最後に結ばれるけれど、それは自分の職業としてうーーーんと思ってしまった。物語だからいいのだけど!

でも厳密には治療として関わってもいたわけだし、そこで培われたものならば離れた方がいいと思うな…と思ってしまったりする。

まあ、物語だし江戸時代だしっていうのは分かっているのですが!


あとはやっぱり現実はなかなか難しいだろうな…ということも感じた。

ハッピーエンドだけれど、事実が分かって解決してもむしろそこからが始まりなような気がする…。心ってなかなか難しいから…。

まあこの辺りは完全に職業病ですね。一般の人は思わないだろうから。


まあでも!物語としてはすごくよかったです!

謎が謎を呼ぶミステリー!

一体どうなるのか!?と気になって飽きることなく最後まで読み切ってしまった。

文量が多くても、どんどん先を読みたくなるのが宮部みゆき先生だと思う!

 


そんなこんなで久しぶりに宮部みゆき先生の作品を読めてよかったです。

他の作品もいくつか手に入れたのでまた読んでいきたい。

2年くらい前から制覇したい!と言いつつなかなかできていないのでね。

 


あと!読んでいてショックだったのは、本の間にその出版社の作品が紹介されている紙があるじゃないですか!そこにこの世の春の紹介もあったので、途中で読んでみたんですよ!そうしたらまだ知らない部分のネタバレがあって!前情報なして読んでいたしそのまま読んでいたかったのでちょっとショックだった…。これからは本に書いてあるあらすじやネットの情報だけでなく、本に挟まっているものにも注意しようと思う。

好きな作家さんの作品は面白いことが分かっているので何も読まずに楽しみたい!