国内外の作家10人のシスターフッドの作品を集めたアンソロジー。
表紙は可愛らしいけれど、内容はなかなかに濃くて難しい。
リッキーたち サラ・カリー
レイプされた四人の大学生たちは被害者として生きることを拒否して生きようとするがー?!
どういう内容なのか最初はよく分からない部分もあった。驚くべきことにみんなリッキーに名前を変えてしまう。そのため、微妙に違う呼び方にしているのがおもしろかった。私も子どもの頃にリカちゃん人形をいくつか持っていて微妙に名前を変えていたのを思い出した。
レイプという辛い出来事を扱っている作品だけれど、怒りのエネルギーだったり負けないという思いが強く出ていて勇気づけられる。
そんなリッキーたちも少しずつリッキーでいなくてもよくなっていく。
パティオ8 柚木麻子
中庭を口の字形に囲む形で建てられた集合住宅。ステイホームによって在宅勤務、在宅子育てを余儀なくされた女性たちに、住民の男性から苦情が出てー?!
本作の中では読みやすい作品。
時代も現代だしちょうどコロナ禍を描いているので共感できる部分も多い。ただ、今の状況とは違って初期の頃なので全く外に出れなかったりしている。今の方が感染者は多いのになんだか不思議だよね。
子どもの声がうるさいとある住民の男性から苦情を言われる。でも実際は彼も子どもの声がうるさいことが本当の原因ではないことは分かっている。
まあでもずっと子どもの叫び声とか聞いているとストレスがかかるのは分かる。ただこの集合住宅は子どもが中庭で遊んでいいというのが前提条件だったので、それなのにわざわざ言うのは…という感じ。
元々仲がいい住民たちがそれぞれの得意分野を活かして力を合わせていく様子は読んでいて気持ちよかった。でもなによりも!味方ではないと思っていた苦情を言ってきた男性の妻も協力してくれるのがすごい!これぞシスターフッドって感じがする。
でも最後はちょっと可哀想にも感じるけどね。
ケンブリッジ大学地味子団 ヘレン・オイェイェミ
ケンブリッジ大学には地味子団がいる。男性たちが集まる他の団と敵対関係にあったがー?!
文体が硬めというか、最初はどういうことがよく分からなかった。そもそも「〜団」っていうのに馴染みがないし、大学でそういうのがあるのもよく分からない。
サークルとは別でってことだよね?いつかモンスターズ・インクの大学生編の映画を観た時に寮ごとに別れてたりしてた気がする。「ザ・オーダー 暗黒の世界」っていうドラマでも魔法を使える不思議なクラブがあって〜という感じで、アメリカとかの大学にはそういうのがあるんだろうな〜となんとなくで読んでいた。
昔々、男性側が地味な子を連れてきてバカにしたことがある、というのが事の発端らしい。そういうアホなこと大学生でするなよ…小学生かよ…って思ってしまう。
でもアホなことだけど普通に傷つくよね…。
意外に今はゆったりとしたクラブなのがおもしろかった。そして最後はうまい感じにまとまる。
先輩狩り 藤野香織
感染症の影響によりずっと女子高生として生きることになってしまう。彼女たちは夜に彷徨いー?!
一応現代っぽい設定ではあるのだけど、女子高生たちを取り巻く環境が謎すぎる。夜に彷徨う理由もちょっとホラーっぽくて怖い。
どういうこと??となりつつもおもしろいので読んでいくと、状況が少しずつ明かされていく。
男子高校生はいいけど女子高校生はダメっていう考えが怖すぎる。そして永遠に女子高校生として生きる。
一体どういうこと??何者にもなれない期間が長すぎる。ずっと女子高生なんて嫌すぎる…。
世の中だとよく女子高生が主人公になったりするけれど、実際の女子高生なんて大変すぎて大人の方が全然楽だと思う。
学生の頃なんて自由もないし勉強しないといけないし、頑張ったからといってお金がもらえるわけじゃないし。
今なんて自分のやりたいことをしたらお金がもらえるし、ある程度は先が見通せるし、自分が欲しいものを買って自分のしたいことができるし。
ということで何十年も女子高生になる世界は無理〜〜〜。まあこの物語の中では現代の女子高生っぽい生活は送ってないみたいだけども。
星空と海を隔てて 文珍
上司から受けたセクハラ。うまくあしらったつもりだったがー?!
一番リアルな話だった。
飲み会の席でのセクハラ。大事にしたくなくてうまくあしらったつもりだったのに、なぜか表面化して逆に上司からの怒りを買う。
実際にセクハラされたのは事実なのに色々と理不尽すぎる。
その場でセクハラだって糾弾すればよかった?逆に弱みを握ればよかった?でも証拠がなかったら窮地に立たされるのはこっちだし。
よく女性は仕事をもらえていいね的なことを見るけど、こういうふうに一瞬で崩れ去るなんてこと男性側はそうそうないじゃん?と思う。
うまくあしらえてたらまだしも、そうできなかったら実際に性被害に合うし、逆に今回みたいに批判されるしでいいことなんてないと思う。
逆に男性同士の方がそういう感情が入り込まなくて親密になれば比例するように信頼されるわけで。そしてそれはよっぽどのことがなければ崩れないよね。
なあ、ブラザー 大前栗生
あらすじを伝えるのが難しい作品。
日本人の方が書いている作品だけれど、難しかった。
読んでいるうちになんとなく分かるのだけれど、あまり理解できなかったかも。
でもみんなすごく考えていてハッとさせられた。
桃子さんのいる夏
お隣さんに素敵な夫婦が引っ越してきてー?!
結婚をせっつかれている主人公。
隣に引っ越してきた素敵な夫婦。でも彼らにももちろん悩みがあった。
モデルとなった実際の方がいるよう。素敵な人だったのだろうなあ。心があたたかくなる物語。
未来は長く続く キム・ソンジュン
火星で生まれた少女は、ロボットと犬に育てられるがー?!
一番「物語」っぽかった。
最初はちょっと「?」と思うところもあったけれど、状況がのみこめると彼女たちを応援したくなってしまう。
逃げて来た女の子の話はリアルで怖い。
人間だけど人間じゃない、特別な存在が親代わり。ロボットと犬だけれど愛情深い育ててくれた。彼女たちの家庭はあったかいなと思う。
この世界観にずっといたくなる。
断崖式 桐野夏生
家庭教師先の子どもが事件を起こしたー。
ちょっと薄暗い話。
存在感のない影の薄いお母さんとか不倫相手の女性を責めたくなるけど、でも不倫や浮気には絶対男性の存在があるもんな…と最近気づいた。
人間同士の関係性だから、「こういう妻だから浮気した」っていう構図は「浮気したいからこういう妻にした」にもなる。だって浮気をしたくないと本気で思ってたら妻を変えたり別れたりするじゃん?
でも妻は家庭には必要、でも恋人も必要だからそういう家族関係になるんだろうな。子どもが一番の被害者。
老いぼれを燃やせ マーガレット・アトウッド
高級高齢者施設に炎が上がる。警察もなんとかしようとするが、どうにもできない。ある時、自分達の施設にもーー?!
ちょっと前提条件がよく分からなかったのだけれど、現実に実際に起きている問題らしい。今作ほどにいくのは極端ではあるけれど。
でも高齢者を非難するというのは、将来の自分を非難することなのになあと思ってしまう。でもそれを考えられないくらい今の状況が大変で辛くて、高齢者と若者が分断されているのだろうな。
それこそ頑張って頑張ってやっとほっと一息つけたらもう高齢者で、そうしたら若者から非難されるって辛すぎるよね。
起こっていることはめちゃ怖いのだけど、主人公はあんまり目が見えなくなってて幻視が見えるというシャルル・ボネ症候群になっている。なので、ちょっと幻想的というか現実離れした感じがある。
でも怖すぎる〜。施設にいる人たちのことを諦めてるのが怖い。あと、危険な状況が続いていても子どもたちは施設から親を引き取ろうとしないのも怖い。職員たちが逃げるのも怖い。警察がちゃんと動かないのも怖い。
最後に
アンソロジーは色々な作家さんに出会えるのが楽しい。
でもやっぱり短編はその世界観には入るまでが大変なので長編の方が好きかも、と思ったのでした。