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文学系心理士が好きなことを徒然なるままに書きまくるブログ。小説、NETFLIX、たまに心理学のことも♪

【寮美千子】あふれでたのはやさしさだった

奈良少年刑務所社会性涵養プログラムの一環として行われた絵本と詩の教室を描いた作品

ブログで紹介されていて、気になったので読んでみました!

あふれでたのは やさしさだった 奈良少年刑務所 絵本と詩の教室 [ 寮 美千子 ]

価格:1,100円
(2021/7/25 14:40時点)
感想(6件)

著者は元々刑務所とは何も関係ない作家であったため、最初は刑務所で講師になることに不安を感じていた。そのことが丁寧に描かれていたのがとてもよかった。

一般の人からしたら刑務所に入るのはとても怖いし、不安に思うのは当然だと思う。

作中には心理士も出てくる。司法の分野に行くのはなかなかに大変そうで、今の私では難しいなと思うので働いている人は尊敬する。


詩についてそこまで知らなかったのだけれど、何を書いてもいいことが分かった

自分が感じたことを書いて、それを発表して受け入れてもらうことが癒しになる。

最初はどんなすごい授業をしたのだと思っていたのだけれど、どちらかというとその場にいた他の子どもたちの力が大きいことが分かった。

もちろん安心・安全だと感じられる場を作れたのは、とてもすごいことだし、その上で子ども達がお互いに支え合うことができたのもすごいことだと思う。

でも、やっぱり自分と同じ同年代の子が認めてくれて温かい言葉をかけてくれるというのは、とても強いと思う。大人たちが同じことをしたって同じ効果は得られない。


エンカウンター・グループという心理療法があるのだけれど、それを思い出したりした。

やはり、人と人が関わるのが一番強いんだな、と。

特に対等な関係の相手に認められるのが。

例えば、こうやってブログで感想を書くのもいいけれど、安心安全な場で思っていることをありのまま言えるなら、多分そっちの方が満足できるし癒されるんだと思う。

そういうのいいよなあ〜…。

人が持つ力って強いし、自分が思っているよりも大きなものを他者に与えることができるんだろうな。


この本に出てくる子どもたちの多くは元々は被害者であり、誰からも助けられず、刑務所に行きついてしまっている。

私はどうしても被害者のことを考えてしまうけれど、加害者支援が重要なのは知っているので、同じようなプログラムが全国で行われて欲しいと感じた。ただ、機械的なカリキュラムになるとそれはあんまり効果を出さないようにも思う。

著者の寮先生がとても熱心だったこと、他の刑務所の職員もとても熱心だったことが、子どもたちにいい影響を与えたのは確実だから。機械的になってしまうと、そこまでの成果はあげれないかもしれない。


心に残った言葉

そうなのか、と改めて実感した。社会のなかで、いちばん困っている人、困難を抱えている人を支援するというのは、その人のためだけのことではないのだ。その人の困難が解消すれば、みんなが気持ちよく前向きに生きていける社会になっていく。追い詰められて犯罪に走る人も減る。被害者も減る。だから、障害者や老人、経済的弱者、虐待を受けて心に傷のある人など「弱者」への支援が大切なのだ。なんでも根性論に帰して「自己責任だ一と放置し、排除すればするだけ、弱者は追い詰められる。そのせいで、周囲に負の影響が生じて社会全体の困難が増す。当然、犯罪も増える。みんなが疑心暗鬼になるギスギスした世界になってしまう。「情けは他人のためならず」という言葉通り、支えあい助けあうことは、ほかでもない、巡り巡って自分自身のためになることなのだ。

この言葉通りで、困っている人を助けることは、その他の人も助けることになる。自己責任論が強くなればなるほど、社会はギスギスしてしまうだろう。犯罪が起こる前に予防することが一番大事だからこそ、福祉と教育にお金をかけることは必要なことだと思う。


作中で大学の講師をしていた時に、人格の攻撃をしてしまう生徒が多かったため、刑務所にいる子どもたちの方が感じやすく傷つきやすかったのではないかと書いている。

学生たちが人格を攻撃してしまうのは、恐らく自分が攻撃されないようにしているだけのように感じた。

また、そうやって言葉で攻撃して自分の身を守れる人は、すぐに手が出ることがないようにも思う。

刑務所にいた子どもたちの多くは言葉を扱うのが下手で、さらに自分でじっくり考える習慣もついていなかったから、すぐに手が出てしまったり、他の対処方法が分からず、最終的に手が出てしまったのではないだろうか。

そう思うと、大学の授業の場を生徒たちは安心・安全だとは感じていなかったのかもしれないと思う。

評価される場所だからそう感じるのはなかなか難しいからね。

学校の中で評価されない場ってそもそもないように思う。のびのび生きることも難しいし…。もっと失敗してもいい雰囲気になるといいよね。

心に残った言葉。

このとき「共感だけが「受けとめ』ではない」と知った。違う意見でも、構わないのだ。相手を否定せず、きちんと自分の気持ちを述べれば、それはりっばな「受けとめ」になる。人と人として対等に向きあうことこそが、大切なことなのだと、彼に教えられた。