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【荻原規子】樹上のゆりかご

久しぶりの荻原先生〜!読んでいると荻原先生の文体!と嬉しくなる。ちょっと大人びた子どもたちの考え方や話し方が好き。

あらすじ

伝統校である辰川高校の入学したひろみ。不思議な少女・有理との出会う。生徒会に入ったひろみだが、気味の悪い脅迫状が届き始めー?!

 

読んでみて

ドラマ化してほしいー!しないかな?しなさそうだな〜。

主人公は「これは王国のかぎ」と同じ上田ひろみ。続編があるって知らなくて、知ってたらすぐに読んだのに〜!と思っていたら、あんまり関係なかったみたいでよかった。でも順番に読んだ方が分かりやすいとは思う。


王国のかぎの方はファンタジー色が強かったのだけど、こっちはそういうわけじゃなくってミステリー色が強い。最初はどういう小説なのかあんまり分からず、ひろみが入ることになった辰川高校という伝統ある高校についてが主になっている。

 

進学校であるにも関わらず、行事に死ぬほど力を入れていて変な一体感を持っている。そこは独特の世界で同じ世代の子どもがたくさんいて、なんの意味があるのか分からないことを一心不乱にやっている。その波に入ることは居心地いいだろうと思う。

そこは集団だからその集団に入れば気持ちいいし安心できる。でもいつかはそこから巣立って個人になるときはやってくる。有理は元からそこに入らない人間で、入ろうとしない人間だった。個性を隠そうとはせず、むしろクラス全体が有理に合わせて有理の個性がクラスになっていた。

 

大人になってから思うと学校って不思議なところだったと思う。ずっとそこにいたから気づかなかったけれど大人になってみるともうああいう空間に入ることはないんだと気づく。もう一回学校に戻ることはあってもそこは同じ年齢の集団がいるところではなくなっているだろうから。未来が分からなくて無限の可能性があるけど不安定な世代が集まることはもうないんだろうな。

ある意味誰でも対等な世界にいるって子どもの時だけだと思う。もちろん辰川高校と他の高校を比べるともうその時点で差は出てるのだけど辰川高校の中ではカリスマ性があったり優秀であったり違いはあるけれどみんな対等で未来に対して平等に開かれている。でも一方で似ているところが多い分、個々の能力が目立ってしまい残酷でもある。


今作の男の子の主人公はは鳴海知章かと思いきや、実は江藤夏郎。夏郎って名前っていいと思う。

今までの男の子の主人公ってクールな人が多いイメージだったので(RDGやセラフィールド)、夏郎だったのはちょっと意外だった。でもまあ幼少期に何もなく素直に育ったら夏郎になりそうな気はする。夏郎が言ったことでなるほどと思った会話。

「社会じゃないもん、学校だろ」

「学校だって社会です」

「ちがうよ」

断言するので、私はびっくりした。

「ちがうはずないじゃない。人が集まれば社会になるのよ。どんなところでも。」

「おんなじだったら、学校に通う意味がないだろ。本音を言わなきゃ。おれたちが学生の出なくなって、本音を言ったらたたきつぶされる場所行く前に」

わー、なるほど。でも本音ってある意味残酷だよね。ひろみはなんだかんだ夏郎に対して本音を言えるようになったし夏郎も一方的に言うわけではないからいいけど、一方的に言われる場合だと子ども時代が一番残酷だと思う。大人の方が直接的には傷つかないことが多いと思う。私的には夏郎にはもうちょっと可愛げが欲しかったけども笑。


有理とサロメが重なるところが怖かった。有理はサロメに自分を重ねていて、彼女はサロメの狂気が分かった。

狂気じゃなかったのかもしれない。でも実際に現実に起こったら狂気だと思う。

有理がやったことはひどいし、自分勝手に感じる。彼女の考えは分からないでもないけれども。

オスカー・ワイルドの「サロメ」は読んだことがなかったけれど気になったのでいつか読んでみたい気がする。


最後にひろみの言葉。

私と有理さんのちがいは、行動を起こす力があったかないかのちがいだった。たったそれだけの差異なのだと、私は思った。私には有理さんのように具現する力がなかった。ただ、物語を考えて終わらせることしかできなかったのだ。

(私は、何もしなかった……だから、何も変わらないのだ)

結構刺さる。私も有理というよりもひろみなので。でも有理である人ってそんないないよね。


微妙な年齢の子どもたちの描写を描くにあたって荻原先生はとても素晴らしい。本当に。

でも子どもの頃に私はここまで考えたことがなかった気がするので、やはりみんな賢いのだなと思わずにはいられない。もちろん荻原先生も。