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【宮部みゆき】桜ほうさら

桜ほうさら

ささらほうさら。」それは「いろいろあって大変だ。」という意味の方言らしい。

じゃあ「桜ほうさら」ってなんなのか?

物語を最後まで読めばわかるはず。

NHK玉木宏主演ドラマ化されてます!オンデマンドなら見えるらしい!


あらすじ

搗根藩の古橋宗左右衛門の次男・古橋笙之介は頼りなさげで剣は苦手だが学問に精進していた。ところが父に賄賂の疑いがかかりお家は断絶。笙之介は里江江戸詰留守居である通称・東谷の計らいで江戸に行くことになる。東谷からは父・宗左右衛門が賄賂を受け取った証拠になった手跡が全く同じの偽文書出所を探るように言われる。どうやら藩の行末とも絡んでいるらしく...?どこからとっかかりをつけて良いのか分からない笙之介は、写本の仕事で生計を立てつつ探ることにするが、不思議な謎解きに巻き込まれていき...?

 

読んでみた感想
古橋笙之介というなんとも頼りない浪人が主人公の本作。別に武芸に優れているわけでもなく、特段頭が回るわけでもない。むしろ住んでいる長屋の町人たちから心配されるような主人公だ。

一方勝之助は反対に武芸の腕が良く男らしくたよりになる存在。そんな2人が対照的に描かれていておもしろい。普通に考えたら主人公は勝之助の方が合っているように思う。そっちの方がアクションあり、男気あり、野心ありの物語になるだろう。

けども、主人公は頼りない笙之介であり、頼りない笙之介には勝之助にはないものがある。それは父・宗左右衛門にはあって母・里江や兄・勝之助にはなかったもの。本来であればどちらが良くてどちらが悪いということはなかったんだと思う。それぞれがそれぞれの良い面、悪い面があってお互い尊重できたらよかったんだろうなあと思う。ただ武芸を尊重する搗根藩では母や兄の性格が良しとされ、父や笙之介のようなものは腑抜けや腰抜けと下に見られてしまった。それがそもそもの問題の一つのように思う。

自分と似ている子はよく分かるけれど逆に似ていない子はよく分からない、そういうことはよくあると思う。似ているもの同士で、父-弟、母-兄という構図になったり、父-娘、母-弟という構図になったり様々だ。「あの子は父親に似ていて私とは似ていないからよくわからない」、という思いからお互い分かりあおうとせずいつしか分かり合えないレベルになってしまったのが笙之介たち家族であろう。家族であっても分かりあおうと努力しなければ永遠に分かり合うことは出来ず、大きな亀裂となってしまう。

反対に自分と似ている子を嫌悪する場合もあると思う。これもこれでややこしい。この場合は恐らく自分のことが好きじゃないから自分と似ている子も好きになれないのだろう。

桜ほうさらは、搗根藩の政権を交えた思惑と見せながらも根本は家族の亀裂が産んだ物語だった。そこが根底であり、そこから笙之介は巻き込まれることになった。勝之助や里江が出てくる場面を見ると、確かに笙之介や宗左右衛門は頼りないしもっとしっかりして欲しいという気持ちが出てくる。なんだか無性に自分が責められているような気持ちになって、笙之介はもっと頑張るべきじゃないか、と思ってしまう。私も勝之助の方が正しいような気がしてしまっていた。ところが渦中の笙之介は気にしていない。気にしていないわけではないけれど、じゃあもっと武芸を頑張ろうだとか、もっと認められるようになろうとか、そういうところがない。自分の本分が何であるかしっかり理解して、例えそれに諦めがあったとしても卑屈にならずに生きている。それってすごいなあと思う。それが笙之介の魅力のように感じる。

多分、父である宗左右衛門が身近にいたから卑屈にならずに済んだんだと思う。自分と似ているけれど自分からみて尊敬できるところがある父。そんな父がいたからこそ、自分を卑下にしたりしなかったのだろうなぁ、と。そういう心の根がまっすぐな笙之介だからこそ、のんびりしていて抜けていても長屋の人たちから慕われたり和香と心を通わせたりできたのだと思う。

一見何にも持ってないように見える人であっても何かしら良い点はあるし、周りと比べて卑屈になることなく自分らしさを大事に生きていきたい。そうすれば自分の良いところを見てくれる人と出会えるのだろうなあ。押込御免五郎みたいにはならずに。

 

 ちなみに

NHKにて2014年にお正月の時代劇としてドラマ化されてます。玉木宏さんが笙之介を、貫地谷しほりさんが和香を演じているというめちゃビックなドラマになってます!!観たい〜オンデマンドだと¥200くらいで見えるらしい。観たい観たいなあ。

今まで読んだ宮部みゆきの作品一通り見たいなぁと思ってます。いつかみよ。