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文学系心理士が好きなことを徒然なるままに書きまくるブログ。小説、NETFLIX、たまに心理学のことも♪

美しさとは???宮部みゆきからみてみる

宮部みゆき】女性の美しさを描く

「美しさ」ってなんだろう女性にとって永遠のテーマだと思う。もちろん男性にも。

宮部みゆきの小説には、意外にも「美醜」をテーマにした作品がけっこうある。

ミステリーというジャンルを書いている作品の題材として「美醜」が選ばれるのってけっこう意味深。「美醜」に関係して人は憎んだり、怒ったり、妬んだり、呪ったり、蔑んだり、嘲ったり、憐れんだり、そういう色々な感情が喚起されるから、事件が起こりやすいのかもしれない。

容姿に悩んでいない女の子なんていないと思うけれど、特に今悩んでいる人にぜひ読んで欲しい

小説を読んだからって容姿は変わらないけれど、心は少し変わるからね。

大女で器量良しでもないお信は、ある時、美形で商売も上手くいっているお店の若旦那から縁談が舞い込む。しかも相手はお信を器量のぞみで嫁に欲しいと言う。馬鹿にされていると憤りつつも、断る理由もなく不思議に思いつつ嫁いだお信。一家は全員美形で心根も優しくお信を受け入れてくれる。ところがみな美形にも関わらず自分たちは醜く、お信が美形だと思っているようで…?

感想

なんとも不思議なお話大女醜女と嘲られてきたお信にとっては不思議な体験であり、居心地の良い人生をやっと手に入れたのだ。それは絶対手放したくないけれど、でもそういうわけにもいかなくなってしまう。お信は自分の生きやすさと大事な人の幸せを天秤にかけて選ぶ。何より愛する人から拒絶される恐怖を思うと本当に辛いけれど、何が自分にとって大事なのかを考えて…。読後はなんだか拍子抜けするような、でも人生ってそういうものだよな、と感じさせてくれる。なんだか容姿に悩んでいるのが大したことがないように思えてくる。

 

天狗風 霊験お初捕物控2

天狗風 霊験お初捕物控(二) (講談社文庫)

天狗風 霊験お初捕物控(二) (講談社文庫)

 

霊験お初捕物控の2作目器量良しで若い娘が神隠しにあうという不思議な事件がおこる。前作に引き続き、お初は算学の道場に通う右京之介とともに事件の謎を解明していく。その裏には、「美しさ」に固執する女たちがいた。

感想

「美しい」ということは女性にとってとても大事なことだ。例えば「美しい」人が年老いたら?美しさを失ってしまうのか。「美しい」人が怪我を負ったら?美しさは損なわれてしまうのか?元々「美しくない」人にとっては美しい人を憎むのは仕方がないことなのか?「美しい」ことだけに固執するのは良くない。いや「美しさ」だけではなくて、学歴職歴地位家柄ありとあらゆることに対してそれだけに固執するのは良くないと感じさせてくれた作品。

 

ちなみに霊験お初捕物控の1作目はこちら。1作目から読むとより楽しめます。

震える岩 霊験お初捕物控 (講談社文庫)

震える岩 霊験お初捕物控 (講談社文庫)

 

 

あやし

次は「あやし」から2作品

あやし (角川文庫)

あやし (角川文庫)

 

梅の雨降る/あやし

箕吉の姉・おえんは心を病んでいる。それは幼少の頃に起こったことが原因だった。決して器量良しではなかったおえんは、器量良しの少女に不運が起こるように願ってしまう。そして少女は亡くなってしまったのだーーー。

感想

なんとも心が寂しくなる話。人生生きていればうまくいかないことや自分よりも相手が選ばれることや自分の願ったことが偶然にも叶ってしまうこともあるだろう。決して珍しくない話。ちょっとでも歯車がズレていたら良かったのではないかと思ってしまう。もう少し大人だったら?違ってたんじゃないだろうか…。誰しも自分の容姿には悩むけれど、ちょうど年頃に傷つけられると他の年代よりも何倍にも重く感じられるよね。


時雨鬼/あやし

美醜とは少し違うけれど、同じく「あやし」から。

奉公人として働くお信は重太郎というとても優しい男性に熱をあげでいる。重太郎はお信の今の奉公先より良い奉公先を紹介できると言い、将来のためにもそちらに移った方が良いと言う。奉公人口入先の女将は重太郎がお信を騙そうとしている言い「鬼」の話をする「たくさんの人間の中には、人間らしいきれいな顔の下に鬼の本性を隠しているんだ」と。それは一見、周囲には鬼が潜んでいるから注意しろという話に聞こえるが、実は違ったのだ。本当の鬼は…

感想

甘い言葉を言われて信じてしまった娘に大人の女将が鬼の話をする。最後にゾッとする。鬼に騙されるだけなら良いのかもしれない。本当に怖いのはそこじゃないのだ。お信は果たしてどんな選択肢をするのか。鬼から離れることができるのか…。自分の選択を考え直すきっかけになる話。あなたは胸を張って言える?その選択をしたら…鬼にならないと…。

甘い言葉を囁かれて熱を上げてしまうのは何か別に悩みがある子に多いと思う。容姿にコンプレックスを持っている人にも。自分のことを保証してくれて甘い言葉をかけてくれるのはとても嬉しい。自分もこんなふうに大事にされる資格があったんだって思わせてくれるから。でも相手がどういうつもりで言っているのか客観的にみることも大事かもしれない。それは何より自分のために

 

馬鹿囃子/本所深川不思議草子

本所深川ふしぎ草紙 (新潮文庫)

本所深川ふしぎ草紙 (新潮文庫)

 

「本所深川ふしぎ草紙」に入っている「馬鹿囃子」。

人前で他の少女を殺したという少女。でもそれは器量良しではない少女の妄言だった。そんな彼女をお吉は心の中で笑う。「馬鹿囃子が聞こえる。」少女は言う。でもそれは決して彼女にとっては妄言ではないのだ。

感想

心がぎゅっとなる作品。私にも彼女の気持ちが痛いほどわかる。少女が美醜にこだわっているのではない。周りが美醜にこだわっているんだな、と感じさせられる。そしてどちらの気持ちも分かる。私もバカにしたことがあったかもしれない。今までの人生の中でなかったとは言えない…。

 

裏切らないで/返事はいらない

返事はいらない (新潮文庫)

返事はいらない (新潮文庫)

 

「返事はいらない」にはいっている「裏切らないで

ここまで時代劇の作品ばかりだったけどもこれは現代のお話。今時の若者である道恵が歩道橋から転落死した。借金もあったようで事故だと思われたが、刑事の加賀美は気になることがあり調査を続けることにする。犯人は一体…?

感想

若さに囚われてしまった女性の話。「若さ」、それは美しさよりも儚いものかもしれない。美人であれば若さが失われても美人だ。でも美人ではない場合はどうなる?若さがなくなったら何が残るのか?「若さ」というものはきっといつのまにかなくなっているものなのだ。急にはなくならない。少しずつ少しずつ減っていって、なくなった時に初めて気づく。そして驚愕し、その時にはどう生きていったら良いのかわからないー。「若い」うちに「若さ」以外のアイデンティティを獲得しておかないとこの小説みたいになるのだろうか。周りの評価に左右されるのってとても生きづらいだろうな、と思う。

 

おまえさん

おまえさん(上) (講談社文庫)

おまえさん(上) (講談社文庫)

 
おまえさん(下) (講談社文庫)

おまえさん(下) (講談社文庫)

 

ぼんくらシリーズ の2作目、「おまえさん」。この作品から同心の「信之輔」が登場。将来を嘱望される信之輔だが、残念なことに珍しいほどの醜男なのだ。主人公である本所深川の同心・平四郎も決して美形ではないのだが、甥っ子弓之助はかなりの美貌の持ち主で、美形すぎて将来を心配されるくらい。でも最後には醜男の信之輔も「いい顔」になる。それば美形ということではないが、「いい顔」にはなれるのだ。

感想

醜男の信之輔と美形の弓之助が対照的に書かれているのがおもしろい。信之輔は醜男なりの?失敗をし、弓之助は美形という特技を存分に発揮する。容姿が違えば周りの見る目は変わるだろう、扱い方も変わるだろう、人生も変わってくるだろう。でも結局はどんな人生を選ぶかは自分自身なのだ。ないものを欲したってしょうがない。ないなりにどうするかが大事なんだなあ。

 

ちなみに美形な弓之助を最初から見たい人は1作目の「ぼんくら」からどうぞ。

ぼんくら(上) (講談社文庫)

ぼんくら(上) (講談社文庫)

 
ぼんくら(下) (講談社文庫)

ぼんくら(下) (講談社文庫)

 

3作目の「日暮らし」でもみんなに会えます。

日暮らし 上

日暮らし 上

 
日暮らし 下

日暮らし 下

 

 

まとめてみた

こう見ると宮部みゆきは美醜に何かこだわりがあるのかなあと感じる。でもこの世界、日本に生まれて自分の美醜について全く考えずに生きてこれた人なんていないだろう。特に女性は。テレビを見ても、雑誌を読んでも、女性には「美しさ」が求められる。美しいことが善で醜いことが悪かのような価値観を植えつけられる。何か不当な扱いを受けても、「美しくないから仕方ない。」「自分が醜いせいだ。」と思ってしまう。

外側からは常に圧力がある。少しでも美しくいないといけなくて、そうじゃない人は怠けていると思われる。そういう世界に私たちは生まれた時から投げ込まれている。でもだからってそんな世界のルールにがんじがらめになって生きなきゃいけないのか?そのレースから完全には出れなくても、自分らしく生きることはできないのか?それは自分が美しくないと諦めることではなくて、自分の価値観で自分をみていくこと。自分を誇りに思うこと。「美しさ」に限らず、周囲からの評価を重要視するのは、周囲に左右されるということであって、かなり不安定だ。だから「美しさ」に固執する人は美しくなくなったら不安定になるし、「若さ」に固執する人は若くなくなったら不安定になる。そういうのも大事かもしれない。でもそれだけを自分の価値にはしない方が良い。周囲からの評価以外で自分を認めてあげる、自分を誇りに思う、自分の強みを探すことが大事のようにも思う。

まあそれがなかなか難しいんだよね。だって醜いよりは美しい方が良いんだもの。でも美しければ何もかも良いわけじゃない。嫉妬や羨望は誰の心にもあるし、時には憎しみにもなる。でも相手や自分を壊すような感情は害しかない。美しさも大事かもしれない。でもそれと同じくらい大事なことは他にもたくさんある。それは人によって違うかもしれないけれど。愛しい人はどんな姿形でも美しい。本当の美しさはみるものの心の中にあるはずなのかもね。

まあ、なんか色々いったけれど、少なくとも自分が存在している只それだけのことで、自分には価値があるんだと実感していこうかな。美しさとは関係なしねに。うん。

 

気になったものがあったらぜひ読んでみてください〜