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【マーガレット・アトウッド】誓願

侍女の物語」に引き続き「誓願」を読みました〜!

あらすじ

侍女の物語」のオブフレッドの物語から15年後。小母としてギレアデで権力を持つリディア小母、司令官の娘として妻になるために育てられているアグネス、カナダで普通の学生をしていたデイジー。別々に生きていた3人が出会う時、ギレアデの命運が大きく動きはじめるーーー?!

 

読んでみて

昨年に「侍女の物語」を読み、1年越しにやっと続編を読むことができた。

とにかく満足。期待を裏切らない。もっと早く読むべきだったなと思う。

積読していた本を読むと大体そう思うけど笑。

 

なんというか「侍女の物語」は鬱々としていて読んでいて幸せな気持ちになったりもしないし、ザ・物語というよりは「1984年」と本当に似ている感じなので内容的にも書き方的にも読むのが疲れるのだよね。

すごくいい本なのだけど。

それもあって続けて続編を読めなかったのだけれど、「誓願」は「侍女の物語」とは違ってテンポも速いし物語として進んでいくので読みやすかった!こういう感じならもっと早く読めばよかったな。むしろ「誓願」まで読んだ方が安心すると思う。


でもまあ33年越しに出された続編なので1年くらい待つくらいがちょうどいいのかもしれない


今回は3人の女性が主人公。

侍女の物語」に出てきたリディア小母も出てくる。

ギレアデ側の人間なのだけれど、彼女も女性であるからには差別されているのになぜギレアデ側にいるのかが分からなかった。

今作ではその理由が明かされる。

リディア小母以外にも3人の小母たちがギレアデの創成期を支えたということになっている。女性の教育体制を作ったのが彼女たち。

ところが彼女たちは元の世界では優秀なキャリアウーマンだったことが分かる。ある時一斉に女性たちが集められて、そして劣悪な環境下に入れられ、順番が回ってきたら拷問を受ける。そんな状況の中、突然人間らしい生活ができる環境に身を置かれる。その生活を続けたければギレアデを受け入れるしかない。

そして忠実であることを示すために罪のない他の女性を撃つしかない。

自分ならどうするだろう?と思う。

読み手としてはリディア小母がやっていることは信じられないし、自分ならもっといい方法を考え出したり屈しないし死さえ選ぶかもしれないと思う。

でも本当に?本当にそんなことができるのだろうか?

その問いにリディア小母が答えてくれている。

どうしてこうも邪悪に、残酷に振る舞えたんですか?あなたは問うだろう。わたしなら決してこんなことはしなかった!と。とはいえ、あなたはそうせざるを得ない状況をみずから経験することはないでしょう。


この最後の一文!

希望でもあるけれど、でも本当にこの世界に生きる私たちに当てはめることはできるのだろうか?そうしないためには今声をあげる必要があるのではないだろうか?

じゃないと本当にギレアデの世界ができてしまうかもしれない。

もちろん永久に同じ国や統治が続くわけじゃないのでいつかは倒れるだろうけど、でもその間にどれだけの人が犠牲になるかと思うと絶対に阻止しないといけないと思う。


また、マーガレット・アトウッド歴史上起こっていないことは書いていないと言っている。つまり、女性の権利が奪われることは実際に起こってきたこと、そして起こっていることなのだ。

侍女の物語でも思ったけれど、名前を取ること、文字を奪うこと、学ばせないことこれが支配することを容易にするのだろうな。

学ばせないっていうのが特にそう。これが今でもそうだよな〜と思う。

私は心理士なので大学院卒なのだけれど、女性で大学院卒って先進国でもそんなにいないよね。日本でも男性の方が多いし。

大学に行けたとしても都心に出なくてもいいとか、そんな賢い大学に行かなくてもいいとか、大学院まで行かなくてもいいとか、そういうのは全然ある。言う側に悪気があるわけではなくて「女の子はそういうもの」みたいなね。

ギレアデでも女性は文字を読まない、というのが当たり前の共通認識になっている。文字を読むのは悪いことっていう教え。他にも性交渉は恐ろしいものってことにしたり。女子割礼もそうだよね。苦痛にすることでコントロールしようとする

なのでディストピア小説ではあるのだろうけど、ディストピアとも言い切れない。人間って怖い。


次は権力を握る司令官の元に生まれたアグネス

一見するとギレアデ国内でも恵まれているので幸せそうに思える。でも結局は司令官の妻になるための存在

妻にも大した力はなく、それなりの生活を送れるとはいえ人権はない。侍女目線から見ると恵まれているようにも思えたけれど、決してそんなことはないことが分かる。

私たちは外の世界から見ているから疑問に思うけれど、中にいたら与えられた役割を全うしないと死ぬしかないのだから仕方ないのかもしれない。

元々の世界を知らずに育った子どもたちはその世界が当たり前だと思って生きている。文字を読まないのも、刺繍しかしないのも、階層が明確に分けられているのも、男性より女性が劣っていることも、結婚するのが当然なことも、13歳くらいで結婚することも、夫の言うことは絶対なことも、自由に散歩もできないことも、顔を隠さないといけないことも、子どもを産まないといけないことも、ありとあらゆることが当然だと思っていきている。

読んでいて悲しかったのは、リディア小母が司令官と話している時に男性よりも女性は劣っているのが当然、だけど細かい些細なことには女性は気付きやすい〜みたいなことを言っていて、この二人は以前の世界を知っているのにこんな茶番なやりとりをやっているのか…と感じた。司令官側はこんな茶番やっててバカみたいだなって思わないのか??

でもそれが共通認識の世界ではアグネスたちにとっては事実になっている。この差が悲しい。

日本でも当たり前みたいに女性よりも男性の方が賢いとか言う人たちがいる。生まれながらに違ってるって。女性差別は世界中どこにでもあるのにそれをないと言えるのは女性差別が強い場所なんだな、ということを私はもう知っている。ギレアデだって女性のためって言っているからね。あれだけ差別しておいて。現実でもそう。差別している事実を周知の事実として認識できないほど差別している状況なのに。


一番共感できたのがデイジー

今の私たちの世界に一番近いのが彼女。

普通の女の子だったのに急に色々なことが起こって大変だっただろうと思うのに頑張っていてすごかった。

ギレアデに行くなんて普通怖すぎるよ…。確証もなかったわけだし。

でも今の私たちの世界っていうのも語弊があるけど。今もギレアデの方が近い国に生まれている人もいるだろうから。


今作は前作よりも希望を持てる終わり方になっている。

リディア小母は悲しいけれど。手記って見つからないこともあるじゃないですか。そう思うとハラハラしていた。でもこれは二重になっていて、本作の中の世界の手記の読者と私たち読者に向けての言葉だから、例えその世界で見つからなくても私たちが読んでいるということが大事なのだろうと感じた。


「十二片に切り分けられた側女」と言う聖書の話が出てくる。

この内容がなかなかに衝撃的。

最初は創作かと思ったら実際に聖書にあるということが分かった。というか後書きの解説とかを読む限りでは実際に現実世界で起こっている出来事や実際の聖書の書いてあることしか載せていないらしい。

とにかくひどい内容で、本書では小母が子どもたちにちょっと希望を持たせて言ったりもするのだけれど実際はそんな希望はなかったという。

一体これから何を学べと??犠牲になった女性は犠牲でしかなくて、全部男性目線なんだよね。「女が死ぬ」と同じような感じで男性の人生のスパイスとして女が死ぬ。男性からしたらここから学ぶことがあるのだろうけど、女側からしたら学ぶとかではない。だって死ぬんだもん。

しかも死んでも12片切られて争いの火種に使われるってさ。最終的に戦いに参加しなかった部族の女性たちが自由に誘拐されていいことになるっていう。男性側も大変だったんだろうけどさ、女性がひどい目に遭いすぎていて女性の立場としては酷すぎる以外感想がない。まあこういう話は他の宗教でもあるだろうけどね。たまに「女性のことは想定されてないのね」って思って悲しい気持ちになることがある。

 

心の残った箇所。

なんと残酷なものだろう、記憶というのは。なにを忘れてしまったのか、思い出せないのだから。なにを忘れさせられたのか。なにを忘れなくてはならなかったか。この国でともかくまともに生きている振りをするために。

ごめんなさい、とわたしはつぶやいた。あなたを呼びもどせない。いまはまだ。

 

時計が時を刻む。一分、また一分と。わたしは待つ。ひたすら待つ。

無事に飛んでいきなさい、わたしの伝令よ、わたしの白銀の鳩よ、わたしの破壊の天使たちよ。そして、無事の着地を。

私にはできるだろうか?

リディア小母のようなことが。

 

リディア小母の禁書リスト

シャーロット・ブロンテジェイン・エア

レフ・トルストイアンナ・カレーニナ

トマス・ハーディ「ダーバヴィル家のテス」

ジョン・ミルトン失楽園

アリス・マンロー「娘たちと女たちの生活」

 

そして手記を入れていた本はニューマン枢機卿の「わが生涯の弁明(アポロギア・プロ・ヴィータ・スーア)」

他にも
コレット「踊り子ミツ」

ロバート・フロスト「選ばなかった道」

 

解説に載っていた作品

風と共に去りぬ

ナオミ・オルダーマン「パワー」

クリスティーナ・ダルチャー「声の物語」

ヴァージニア・ウルフ「自分ひとりの部屋」

メアリー・ビアート「舌を抜かれる女たち」

 

マーガレット・アトウッドの作品

「食べられる女」

「浮かびあがる」

青髭の卵」

「オリクスとクレイク」

「またの名をグレイス」

「昏き目の暗殺者」

「洪水の年」

キャッツ・アイ

「サバイバルーー現代カナダ文学入門」

 

あと文中に載せた「女が死ぬ」はこちらです。