今までに上杉忍著の「ハリエット・タブマン—「モーゼ」と呼ばれた黒人女性」を読んだ。
他に、子ども向けのハリエット・タブマンの物語である、「自由への道」も。
今回は同じく日本人の方が書いた本書を読むこととした。
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読んでみて!
初めて奴隷が売却されたのは1619年。そして1863年にリンカーンが奴隷解放宣言に署名した。
1619年当初はまだ年季奉公人だったようで、その後に奴隷制が整えられ、女性から生まれた子どもも奴隷ということになった。
この理由がねー、ひどい。酷過ぎる。
この法令によって、白人男性が奴隷を強姦して子供を作っても、それを隠して知らないふりをすることができたのである。
いやさ、こんなことを真面目に法令にするって今の感覚で言うとマジで最低すぎる。
これを法令にした人々ってどんな気持ちだったの??黒人奴隷を強姦するのは仕方ない!権利!この法令は大事だよな!って思ってたの??
本当に黒人のことは人間だと思ってないし、妻のことも気にかけていないし、あらゆる差別が詰まった男性優位な社会だったんだな。
ハリエットの姪の息子・ジェームズについて。
ハリエットの姪であるケサイアの息子・ジェームズは一時的にハリエットの元で学校に通い、その後はカナダの親元に戻る。そして南北戦争後にはサウスカロライナ州で教育に携わり、州議会議員にもなった。
州議会議員!売られそうになっていた母を持つ子が!
これはすごい…。
ハリエットの助けで逃げて奴隷ではなくなり、さらにハリエットの元から学校に通って、後年には州議会議員に!感動するね。
また、クエーカー教徒であり、2500人以上の奴隷に手を貸したトーマス・ギャレットは2回裁判にかけられ、還暦間際で資産を没収される。
だが、彼は裁判所でこう言った。
「判事。あなたは私を一文無しにしましたが、私はあなただけでなく、この法廷にいる皆さんに申し上げたい。もし逃げ場や協力者を求める逃亡奴隷がいたら、トーマス・ギャレットのところへ来させなさい、そうすれば味方しますとね。」
彼は資産を没収されても懸命に仕事をして取り戻し、再び逃亡奴隷に手を貸した。
なんという人だ!
いやーすごいね。
命の危険もあるにも関わらず、助けることができるなんて尊敬する。
もちろん、絶対的に黒人奴隷の方が危険な立場ではあるのだけれど、やはり私自身が奴隷ではないため、奴隷じゃないのに命をかけて助けようとする人の心理に関心を持ってしまう。だって自分ならできないと思うもの。
彼らは彼らの信念に従っていて、奴隷を助けないということが信念に従わないことになるからこそしているのだとは思うけれど。でもその信念を貫き通すのが難しいよね。
でもどこの時代にも、どこの国にもそういう人たちはいるわけで…。
地下鉄道という組織もトップダウンではないからこそ僕滅するのは難しかったのだから。誰かに命令されたわけではなく、一人一人が自分の信念で動いていたのだよね。
よく出てくるのがクエーカー教徒。
クエーカー教徒は奴隷貿易と奴隷制に反対しており、クエーカー教徒の人々は逃亡奴隷に手を貸してくれていた。
憲法もそうだけれど宗教も皆平等って言っているわりには奴隷のことは無視するよね、と思っていたので、クエーカー教徒の人々がいてくれて嬉しくなった。
他の人々は奴隷は人間じゃないと思っていたから矛盾に感じなかったのだろうけど、それって完全に詭弁だと思う。
自分と同じ人間じゃないと思っていたとしても、他の動物には人間と同じことやらせないじゃん?でも奴隷には同じことかそれ以上のことをやらせて出来なかったら怒るわけで、自分達と同じだってことが分かっているわけじゃん??本当は分かっているのに自分とは違うって思って思考停止してただけだよね。そっちの方が罪悪感もないし波風も立たないし都合がいいから。
まあその当時に生きていなかった私が言うのも上から目線になってしまうけれど。当時の常識を疑問に思って、逆らって自分の命さえも危険に晒すっていうのはそうそうできることではないとは思う。でもやっぱりひどいし、例え奴隷制に反対する勇気がなくても自分がやっていることは理解しておくべきなんだと思う。
あとキリスト教徒である奴隷主と同じ宗教を黒人たちも信仰している理由がよく分からなかったのだけれど、それぞれ違った解釈で信仰していたことが分かって理解できた。
一般的に考えたら奴隷を容認しているとは思えないもんね。
そしてなんと!ルイーザ・L・オルコットも出てくるよ!
若草物語の著者であるオルコットは、20代の頃にハリエットの講演を聞いており、さらには自宅が地下鉄道の駅の一つだったらしい。
いやー、すごい。思わぬところで。
もちろん、若草物語でも父は北軍として戦っているので、北軍側だとは知っていたけれど黒人奴隷を救出するための手伝いをしていたとは…。
そして南北戦争では看護師として6週間働いている。途中でチフスにかかってしまい、その後も健康になることはなかった。ハリエットは結構な期間スパイや看護師として働いていたわけで、やはり南部に生まれた黒人の多くには抗体ができていたのかもしれない。南部側も黒人たちを兵士にしていたらもっと戦争が長引いていたかもね。まあでもそれをしたくないのが問題だからできないんだけど。差別しているせいで色々損しているのにそれには気づけないのだよね。
ちなみにオルコットはペンシルベニア州出身。ハリエットはメリーランド州で生まれてペンシルベニア州に逃げている。ハリエットが逃げたフェラデルフィアとオルコットが生まれたジャーマンタウンは車で20分くらいの距離だそう。近い!
ハリエットは大体1822年生まれ、オルコットは1832年生まれで同じ時代を生きたことが分かる。でもオルコットは1888年55歳の若さで亡くなり、一方ハリエットは1913年に90歳ほどで亡くなっている。
若草物語を全部読んだら、オルコットの伝記的なものも読んでみたいな。
ハリエットに安く土地を売って支援してくれていたウィリアム・スワードは共和党全国大会でリンカーンに敗れている。
ここでリンカーンに勝っていたらどうなっていたのだろうか。もっと早く奴隷制が廃止したりしたのだろうか。スワードでも上の立場の人になると無条件で黒人差別を撤廃することは難しかったらしいので、あまり変わらなかったのかも。黒人差別が辺り前な時代では、急に流れを変えるのは権力者であってもなかなか難しいのだろう。
ハリエットはガーティーという女の赤ん坊を1874年に養女にしている。また、ウィリアムの次男・ジョン・アイザックの娘であるエヴァ・キャサリン・ヘレナ・ハリエット、ケイティと呼ばれていた赤ん坊もタブマンの元で育てられた。
その後も3人の子どもを養子にしていたよう。
たくさん養子にしていたのね。でも家には家族以外にも常に色々な人がいて、ハリエットにとっては血縁があろうがなかろうが手を差し伸べる相手ではあったわけだから、養子という形にした方が都合がよかったからっていう理由でもありそう。
でもマーガレットが本当にハリエットの娘なら彼女だけはまた違ったのかもしれないけれど。
ビクトリア女王がブラッドフォードの伝記を読んで、誕生会に招待したようだが、タブマンは「よくわからなくて」行かなかったそうだ。
そんな〜〜〜。行ったらきっともっと寄付が集まっただろうに…。
でも行こうと思っても旅費はなかったらしい。
本当にここまで偉大な人が冷遇されるのは辛すぎる。ここまで偉大でも白人との差が大きいなんて完全に社会構造の問題だよね。
リンカーンは奴隷制を廃止した偉大な人ではあるけれど、別に黒人奴隷制に真っ向から反対していたわけじゃなく、穏便にすませようとしていたけれどそれが難しくなったから結局奴隷制を廃止した流れになったわけで。
それでもすごいことではあるけど、別に上層部の人たちは積極的に黒人への差別をやめようとしていたわけじゃないっていうのが辛いよね。
ちなみにビクトリア女王は現在のエリザベス2世の高祖母にあたるそう。
ウィリアム・ウエルズ・ブラウンという方は、奴隷として生まれたけれど逃亡し、その後に「クローテル―大統領の娘」という小説を書いて小説家になったらしい。
白人の男になりすまして逃亡する黒人の女奴隷は合衆国第3代大統領の娘というあらすじらしく、あらすじが濃い!気になる!
ちなみに合衆国第3代大統領はトーマス・ジェファーソンです。アメリカ合衆国建国の父の一人と言われている方。
この「クローテル―大統領の娘」は、アメリカ古典大衆コレクションというシリーズから出ているらしく、そのシリーズがおもしろそうだった。その中の「ラモーナ」っていう作品が気になる。
奴隷制解放のために尽力した人がたくさん出てくるので気になる人はネットで調べたりしてたのだけれど、日本でも知られている人以外はみんな英語。ウィキペディアは英語だし、著書があっても翻訳はされてないし…。
やっぱり英語が読めないとよくないな…と実感。
ネルソン・ホワイトヘッド作の「地下鉄道」という作品が有名だけれど、実際には「地下鉄道」が走っていたわけではない。
そもそも当時は地下鉄はなかったし。
ワシントンDCから来たジムという逃亡奴隷が拷問を受けた末、「はるかボストンまで地下を走る鉄道があって、それで北へ向かうはずだった」ということを白状したという逸話が一八三九年に掲載されている。
ハリエットのように南部に行き、奴隷を助けた人は他にもいたが、多くは白人男性だったよう。
ジョン・フェアフィールド、チャールズ・T・トーリ、カルヴィン・フェアバンク。
黒人男性では、イライジャ・アンダーソン、ジョン・メイソン、ジョサイア・ヘンソン、ジョン・パーカー。
調べてもあまり情報は出てこなかったけれど、「アンクル・トムの小屋」のモデルになったジョサイア・ヘンソンという方が特に気になる。著作もあるみたいだけれど、情報が出てこない。
女性もハリエット以外にジェーン・ルイス、ローラ・S・ハヴィランドがいる。
また、マーガレット・ガーナーについてを後年トニ・モリスンが「ビラヴド」として書いている。ビラヴドの元の話が知れてよかった。こちらも読んでみたいと思っている。
人種差別目的でジム・クロウ法、人頭税、識字試験があったとのこと。
調べていると、沖縄で人頭税石という法律があり、1.43mの石柱よりも高い背丈になると税が課されたとのこと。私が調べたかった人頭税とは違うけれど興味深かった。
最後のあとがきで、著者は昨今フェミニズム運動が活発になってきて性差別と戦う上でハリエットの差別に対しての姿勢について言及している。
彼女は連帯しない黒人がいても、糾弾することはしなかった。そして、基本的には、加害者である白人に対して恨みを持たなかった。理解ある善意の白人がいることを否定せず、彼らを拒否せずに迎え入れて連帯し、頼る必要がある時は頼った。
何事につけ白黒つけがたいこの世の複雑さに寄り添い、自分がなすべきことを賢く判断して実行したのである。タブマンは強い女だとみなされているけれども、実はその強さは信念や信仰だけでなく、しなやかさから生まれているように見える。
確かにそうだと思う。でもこれができるってとてつもなくすごいことのように思う。差別には徹底的に反対しつつ、でもそれをしている相手を恨まず、でも諦めず…。なかなかできることじゃないよね。
この姿勢は立場の違う人とでも冷静に対話ができると思うから大事だと思う。でもある意味、すぐには進まないという部分は諦念に達していたのかもしれない。性差別の場合だと、それ以外ではいい人だったり大事な人なのにそのところだけ差別をするから、相手が分かってくれるはずだし分かって欲しいという気持ちが強くなってしまうように感じた。だから余計にややこしいのかも。
サラ・H・ブラットフォード、アール・コンラッド、ケイト・クリフォード・ラーソン、ジーン・ヒュームズ、キャサリン・クリントン(自由への道ー逃亡奴隷ハリエット・タブマンの生涯ー)、ロウリーなどが本を出している。
でも!キャサリン・クリントン以外は日本では未刊っぽい。なぜ!??なぜ??!
みんながもっと読んでくれれば刊行されるのでは!??読もうね!!!
岩本裕子さんの「物語 アメリカ黒人女性史(1619-2013) -絶望から希望へ-」は見つけることができた。読んでみたい。
著者の篠原ゆりこさんは研究者ではない。ハリエット・タブマンのことをある時知り、衝撃を受ける。日本でまだ知られていないことを知って、本作を書くことにしたという。
その熱意と行動力に脱帽する!!
私もすごく気になっていくつか本は読んでいるけれど、「書こう!!」とはならないもん。翻訳者だからというのも大きいとは思うけれど。でも翻訳と本を書くのはまた違うよね。
心に残った部分。
こういうプロジェクトに取り組んでいると誰かに話すと、なぜ奴隷制なんかに興味があるのかときどき聞かれる。しかし、極度に厳しい逆境にありながら、それを乗り越えた人間たちの記録に何も学ぶことがないと考えるなら、そのほうが不思議だ。
いやー、ほんとね。みんなあんまり興味ないよね。
私もパートナー以外には特に話してない。
でも知らないだけで知ったら絶対みんな興味を持つのではないだろうか。
まあ私も地下鉄道を読んでそこから色々読み始めたばかりなのでまだまだですが。でももっと知りたい、もっと読みたいと思う。
ちなみに、著者はゾラ・ニル・ハーストンの「彼らの目は神を見ていた」を買いに行こうとしたらハリエット・タブマンの本と運命的な出会いをしたそう。そちらも気になる!
翻訳文献からいくつか気になった作品をピックアップ。
引き裂かれた家族(マイ・ピープル)を求めて: アメリカ黒人と奴隷制
農園主と奴隷のアメリカ
国境を越えるヒューマニズム
↑これがかなり気になる!色々な人について書かれてあるよう!↑
人間だって空を飛べる: アメリカ黒人民話集
聞書アフリカン・アメリカン文化の誕生: カリブ海域黒人の生きるための闘い
また、著者の翻訳書も気になる。
以上!
次はこちらを読んでみようと思う!
黒人差別について書かれた本をより読みたい人はこちらがおすすめ!