いやー、よかった!
中身を知らずに読み始めて、最初はシャーロックたちが女性になっていたりするのかと思ったら、そういうわけでなく、ハドスンさんとメアリー・ワトスンの物語でした!
なのでシャーロックもワトスン医師も出てきます!
でも今回は脇役だけど笑。
あらすじ
ベイカー街221Bの大家であるミセス・ハドスンは、変わり者の探偵シャーロック・ホームズに部屋を貸していた。ある時、ホームズの元に強請に苦しむ女性が現れるが、詳細を話せなかったため依頼を断られてしまう。ミセス・ハドスンとメアリー・ワトスンはそんな彼女の助けになろうとするがーー!?
読んでみて
今作はコナン・ドイル作のシャーロック・ホームズを元にしながら、本筋ではあまり光の当たらなかったハドスン夫人を主役にしている。
でもハドスン夫人に特別な能力があるわけでも探偵として秀でているという設定があるわけでもない。普通の女性。
だからシャーロックたちに言わずに事を進めるのは無茶では?と何度も思う。本文にもそれは触れられている。なにが一番よかったか考えると、シャーロック達に任せるのがよかったのだとは思う。
でもこれは女性による女性の物語で、だからこそ女性が解決する必要があったのだということが読んでいると分かる。
強請、と言っても今の感覚でいうとそう大したことはない。
結婚前の恋人との逢瀬、その時に身体を許していた可能性など。配偶者が信じればいいだけの話なのに、と思ってしまう。
でも当時は違う。
事実はどうであれ、夫にそういう女だと思われて離婚になったらその後路頭に迷うかもしれない。夫は信じなくても周りに広まったら夫は離婚するかもしれない。
女性には権利が認められてなかった。女性のものは男性のもの。そういう弱い立場にあった。
レ・ミゼラブルでも結婚せずに子どもを産んだことが知られては大変だという描写がある。神に誓って結婚してやっと身体を許してもいい。
今でも処女信仰はあるけど、当時は相当だったのだろうと思う。
それがどれほどひどかったか。それによってどれだけ多くの女性が傷ついたか。
過去のいろいろな記憶がいっぺんによみがえってきた。男たちの見下すような庇護者ぶった笑いや、心配するな、“おつむの小さなかわいこちゃん"という言葉。あれをしてはいけない、これをしてはいけないと、自由を片っ端から奪っていく足かせでしかない規則。女だけ入ることを禁じられたいくつもの閉ざされた扉。これまでの人生で有無を言わさず押しつけられてきた取るに足らない役割。あらためて、びくびくしながら生きていた孤独な女たちのことを思った。今わたしの目の前にいる男によって人生をめちゃくちゃにされ、悲運をたどるがままになった女たちのことを。わたしは自らに言い聞かせた。屈するものか。まだ戦える。敵と同じ方法を使えばいいのだ。この男は言葉で女たちを破滅に追いこんできた。わたしも言葉を武器にすれば、きっと一矢報いることができる。
犯人も女を馬鹿にしている。
シャーロック・ホームズもアイリーン・アドラーに会う前では女性を下に見ていたという描写もある。だからこそ、女性2人が探偵をしていても彼女たちを疑う人間はいない。
これはハリエット・タブマンの本でも描かれていたなと思い出した。ハリエットが奴隷逃亡に成功した理由の一つとして、黒人の女性がまさか奴隷逃亡を助ける車掌だなんて誰も思わないと。
そう思うと女性の地位はここ最近ですごく高まっていって、でもそれに伴う反発があるのだろうな。
マーサ・ハドスンという登場人物も魅力的だった。
夫と子どもに先立たれ、ベイカー街221Bの大家としてホームズとワトスンの世話する女性。自分はいつも脇役で中心に立つことはなく、それでいいと思っていた女性。
そんな女性が探偵になり、謎を解明にするために動き回り、平凡だった毎日にスリルが入ってくる。
ホームズとワトスンに憧れと好意を持ちながらも、自分はただの家政婦だと卑下する。
でも普通だからこそ、読者の共感を得られやすいように思う。自分も特別になれるのだろうか?と。
哀れんでいただくには及ばない。孤独には慣れている。もともと寂しさを糧に生きる性分なのかもしれない。メアリーやビリーのことは大好きだけれど、独りぼっちのときにだけ息がつけると感じることもたまにある。孤独のなかに、誰かといるときには決して得られない種類の安らぎと自由を見出してきた。夫や息子の死さえ、わたしが再び自分らしさを取り戻すための時間を与 えてく れたのではないいかと思えてくるほどだ。
一人きりにならないと、わたしはじっくり物事を考えられない。だから現実には、生活のなかの最も充実した時間はいつも一人きりで過ごす。窓から光が射しこむベイカー街221Bの台所で、急ぎの用事がなにもない自由なひとときを。
もちろん、つねに誰もいない家で一人きりの生活を送るのとは大違いだ。
最初は寂しい人なのかと思っていたけれど、どんどんマーサのことが好きになっていく。
メアリーのように溌剌で誰からも好かれる人ではなく、アイリーン・アドラーのように謎に満ちてなんでも一人でやって行ける人ではないからこそ。
まあでも今作ではなかなか無茶をしたのではないだろうか。
次巻ももう手元にあるのでちょっとずつ読んでいこうと思う。
450Pくらいあるのだが、思ったより読むのに時間がかかってしまった。結構びっしり書いてあることもあり、100P1時間くらいかかったように思う。
でもシャーロック・ホームズを全巻買ったのだからそっちから読むべきだったよな…笑。
ちなみに著者のミシェル・バークビイはシャーロット・ブロンテとアガサ・クリスティーに影響を受けたみたい。
そこはコナン・ドイルじゃないんだ笑。コナン・ドイルも好きだろうけど笑。
出てきた人物や言葉の簡単なまとめ
サー・ジョージ・バーンウェル:エメラルドの宝冠
ラングデール・バイク:三破風船
マイクロフト・ホームズ:ギリシャ語通訳
「イギリス政府そのもの」:ブルース・パーティントン設計書
メアリー・ワトスン:四つの署名
スマトラの大ネズミ:サセックスの吸血鬼で言及される語られざる事件の一つ
マーサ:最後の挨拶に出てくる老婦人
波止場の言及;瀕死の探偵
ホワイトチャペル・レディ:覆面の下宿人、恐喝王ミルヴァートン
シャーロック・ホームズ関連のドラマとアニメを去年観たので思い出していた。
ベイカー街探偵団
憂国のモリアーティ
このアニメではハドスンさんが若い女性になっていたなあ。シャーロックといい感じになっていた笑。