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文学系心理士が好きなことを徒然なるままに書きまくるブログ。小説、NETFLIX、たまに心理学のことも♪

【西加奈子】i

 

あらすじ

ワイルド曽田アイは、シリアからニューヨークに住むダニエルと綾子の元に養子として引き取られる。そしてその後日本に。アイは自分が「恵まれている」ということに罪悪感を抱きーー。

 

読んでみて

よく名前を見る作家さんだったので気になってはいた。でも、現代の日本が舞台で最近人気になっている作品とは相性が悪いことを知っていたのでなかなか手を出せず…。

ので、まあいつか読むか〜というレベルだったのだけれど、たまたま読む機会があり読むことに。

思っていたよりもおもしろくってよかった。

 

ただ、全体的に辛い内容が多いので、心に余裕がある時じゃないと読めなさそう

そして、そこまでよく調べたな!と思うほど過去の事件や事故が記されている

これを見るだけで気分が落ち込むくらい。

それでも全世界の事件や事故に比べたらちょっとなのだろうけれど。

 

また、3.11の描写もあり、辛く感じた。10年経っているけれど、まだ最近のことのようで小説の中で客観視できるほど昔のことのようには思えないのだということが分かった。


現代が舞台であるため、戦争や事件、事故、反原発不妊治療などいろいろな問題が出てくる。同じ時代、同じ世界だからこそ考えさせられる。

この作品は物語ではあるけれど、未来は決まっていない。それは今を生きる私たちと同じだから。


ちょっとうーんと思ったのはダニエルと綾子が幼いアイに世界にはもっと貧しい人がいることを伝えること。

幼い子どもに詳細に伝えたり、写真などの映像を見せるのは適切じゃないように思う。

もちろん自分が養子であることを知り、その後に同じような気持ちになるとしても幼い子どもにわざわざ言うことではないと感じる。

この場面は精神的な虐待に思えてしまい、落ち込んでしまった。幼少期の頃は周りがどうとか関係なく、まずはその子自身に向き合って欲しいように感じた。

完璧な親がいないことは分かるけれど、最初のところが引っかかりすぎて…。子どもに言うことじゃないと思うよ。本当に。

どんな作品にも年齢制限があるように、子どもに伝えることも年齢によって考えるべきだと思う。自分がシリアに置いて行かれてしまうのではないかというアイの思いが辛かった。そりゃそう思うよね…。

西さんの実際の経験も反映されているようで、実際の経験のように周りと接している中で自然と罪悪感が生まれた方がしっくりきたように思う。


とても素晴らしい話でした。辛くなるけれど。

私は自分が影響を強く受けすぎてしまう時は辛いニュースなどはみないようにしている。でも当事者じゃないからこそそうできるのであって、当事者は辛くても見ないふりはできない。だからといって、ずっと辛い現実に向き合っていたら心が疲れてしまう。その匙加減が難しいように思う。

今の職業についてから共感力と言っていいのか、自分も辛くなってしまうことが多くなった。というか、仕事中よりも現実の生活の方が影響を受けやすくなっている。なんだかんだ疲れているのかな、と思ったり。バーンアウトしやすい仕事なので、自分の精神の健康は保つためにちゃんとケアしないといけないと思う。


アイはi、ユウはYou、ミナはみんな。この言葉に込められたメッセージと平和への想い。

西加奈子さんのことを好きだなあと思う。そしてこんなにも世界のことを考えている彼女を尊敬する