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【本】ハリエット・タブマン 「モーゼ」と呼ばれた黒人女性

ホワイトヘッドの「地下鉄道」を読んでから当時のことについて調べたりしていた時に知った女性

 

実際に地下鉄道を8年間運営し、一度も脱線させず!しかも最初の脱走は自分自身だったというエピソードを知って、気になって気になって読んでみました!


当時は黒人の地位向上のために講演をしたりと有名だったみたいですが、高齢になり、亡くなってからはあまり注目されることもなくなってしまう。

ただ、1960年代に入って再び注目され始め、20ドル紙幣に採用されるまでに至った。


こちらの本は小説ではない。

専門がアメリカ史である著者が、タブマンの人生当時のアメリカの状況について詳しく解説してくれる。

思っていた以上におもしろくて、時間を忘れて読むことができた


タブマンは奴隷の子として生まれるのだが、実はタブマンの母親・リッツ父は奴隷主であるアトソウ・パティソンである可能性が高い。

ここが既になかなかに衝撃的だった。もちろん白人男性と黒人女性の間に子どもが産まれることが多かったのは分かっていたのだが…。


つまりハリエットの母であるリッツを所有していたのはアトソンの孫であるメアリーであるため、リッツとメアリーの関係は叔母と姪であることが分かる。

メアリーが亡くなった後はメアリーの息子であるエドワードがハリエットを含むダブマン家を所有していた。

リッツから見ると姪の子どもである。

エドワードはリッツの子ども、ハリエットの姉妹を売ってしまっており、現代に置き換えると自分の「大叔母の子どもを売る」という構図になる。

ひどすぎないか??と感じてしまう。もちろん奴隷制度自体が最低最悪なのだが、それでも自分の血を繋がっている子を売るなんて...。

 

リッツが血縁関係にあったかどうか知っていたかは曖昧だ。

ただ、知っていたとしても大して問題になることはなかったのだろう。例え白人の血が入っていたとしても少しでも黒人の血が入っていれば黒人として扱われる時代だったのだから。

 

現代の感覚で言うと自分の親族を売るなんて、とやはり思ってしまう。そういう良心の呵責とかはなかったのか聞いてみたいぐらいだ。


ハリエットは奴隷である母の子どもとして生まれたため、生まれながら奴隷であった。

知らなかったのだが、子どもたちは母親の立場を受け継ぐことになる。

 

つまり、父親が自由黒人であった場合でも母親が奴隷であるならば、子どもたちも奴隷主の財産ということになり、全員奴隷となってしまう。

そうやって生まれながらにして立場が決まってしまうのはとても悲しい。


ただ、ハリエットの場合は複雑であり、当時のメリーランド州は女性の財産所有権が認められなかったため、メアリーに相続された際には「使用権」という言葉が使われた。この辺りは当時でも不明瞭だったらしい。

 

後々メアリーに相続されたリッツとその子どもたちは「使用権」しかないため、メアリーが亡くなった際には元々の家系であるパティソン家に戻るという主張がされたりする。

また、「45歳まで」という期限付きだったのだが、それは守られず、リッツは奴隷のまま長い間暮らすこととなった。

それもひどいな、と思う。その辺りをしっかり法律で決めるとかさ。

結局、自由を与えてくれる主人にあたらないと意味がない。


奴隷という財産をめぐって、白人の家族同士で裁判をするというのは知らなかった。

本当に物として扱われているのが悲しかった。

奴隷主がどんな人間になるかでその後の人生は大きく変わってしまうのに。


ハリエットは27歳の頃に逃亡することとなる。

それは奴隷主であったエドワードの金回りが悪くなり、兄弟姉妹を売ろうとしていることが分かったからだ。

当時は、期限付き奴隷は州外に売ることは違法だった。ただ、隠密に売ることは可能であったため、二人の姉が売却されてしまう。秘密裏であったからか、この二人の姉の消息は不明のままだ。悲しい。

家族から引き離されることを最も恐れていたからこそ、家族離散の危機の瀕した時にハリエットは脱走を決意する。

女性史家キャサリンクリントンは、「厳しい強制労働もたしかに重要だが、それ以上にアメリカの黒人奴隷制をもっとも的確に表現する象徴は、奴隷の競売台である。奴隷たちは、自分の売却だけでなく家族の売却によって家族と切り離されることをなによりも恐れていた」と述べ、逃亡奴隷ルイス・ヘイデンの言葉「母親、子ども、親類の死なら、その人の記憶はそこで終わるが、行方不明ではいつまでたってもその人に対する記憶は終わらない」を引用してその残酷さを表現している。

 


驚いたことの一つに、ハリエットの母親であるリッツが、自分の子どもを売ろうとしているエドワードに強い力で拒絶をしたことだ。

リッツは断固とした態度でドアの前に立ち、火かき棒を持って「最初に私の家に入った者の頭をかち割るよ!」


ハリエットは奴隷を14回、66〜77人を助け出した。

その初めは自分自身であった。

しかも、一度も脱線(失敗)させていない。

どうしてそんなことができたのかも本書では描かれている。


まず初めに、住んでいた地域がメリーランド州であり、北部寄りの南部だったこと。

当時、自由黒人が多くいたこと。

父の元で比較的自由に仕事ができたため、人とのコミュニケーションや強靭な体力などが培えたこと。

綿密な計画を立てていたため。

また、当時の社会には男女差別が存在していたため、まさか女性である彼女が車掌であるとは分からなかった、というか気付きさえもしなかったのだろう。

そしてその大胆さも成功の重要な要素だろう。


ただ、面白いエピソードもあって、急に神様から言われたと言い、本来行くはずだった道から川の中を入る道に行ったために難を逃れたという逸話もある。

彼女が超人的であり、何かしら力があったのではないかと言われていたのも納得できてしまう。


また、白人同士の軋轢もあり、ハリエットたちを所有していたエドワードのことを周りの白人たちが気に入らなかったというのも影響しているというのを見て、黒人ー白人の対立が強調されるけれど、結局は人間なのだと感じた。

白人も気に食わない白人よりは黒人の方が好きだし、そういう感覚があるということは本当は黒人も人間だと分かっていたのではないかと感じてしまう。


ハリエットはその後、唯一の女性として南北戦争でスパイとして参加することになる。

この時期に、有名な映画である「グローリー」が出てくる。黒人兵士も珍しかった時代に女性として参加し、役割を果たしたなんて驚きだ。

また、女性として同じく戦前にいた女性をサポートしていたことも分かる。

北軍占領地域の現地黒人女性は、北軍兵士の性的攻撃にさらされる危険があった。北軍の白人兵士の大半は、当時のアメリカ社会に蔓延していた人種差別、女性差別の偏見に汚染された「ごく普通の白人男性」だった。女性史の立場から奴隷制研究を進めてきたキャサリンクリントンは、この地域で北軍兵士の性的要求を拒んで撃たれて入院した黒人女性が何人もいたこと、タブマンが、本人が希望すれば女性を北軍兵士から逃れられる施設に収容するよう取り計らったことに注目している。


こういう数々の素晴らしいエピソードがあるにも関わらず、ハリエットは金銭的な危機に何度も陥る。

本来なら兵士として年金が出たはずなのだが、公式ではなかったこと、給与を受け取らなかったことなどが相まって認められなかったのだ。


「多くの奴隷を救った素晴らしい女性」だけで物語は終わらない。助かった人々はその後も生きていき、ハリエットはその人たちのサポートにも奔走する。

カナダに行った人々は、冬の寒さに慣れない。南部から来たからかそれはそうだよね。

ハリエットの母も、長年住んだ家を離れるのは嫌だったという描写がある。

また、寒い地域でもあり、農業がうまくいかず、厳しい生活を送ることもあった。ただ、それでも家族が離れ離れにならないこと、自由に動けることは何よりも重要だったのだろう。


ハリエットの演説について。

タブマンの人生全体にとって、この「地下鉄道」活動は、もっとも華々しい活動だったし、彼女もそのことに強い誇りを抱いていた。一八九六年一1月一八日にロチェスターニューヨーク州女性参政権協会集会が開かれ、ここで演説した際に、タブマンは女性参政権ではなく、地下鉄道運動について述べ、「私は地下鉄道の車掌として八年活動してきましたが、ほかの人たちとは違って一度として脱線させたことはありませんし、一人の乗客も失ったことはありませんと、自信をもって言うことができます」と誇らしく語った。


心の残った部分。

最後に指摘しておきたいことは、タブマンの行動は、なによりもまず「主の導き」に従って行われたことである。それは、次のようなことを意味している。すなわち、ある組織の上層部(例えば北軍)の決定に従って、組織の一員として「合理的に」行動するのではなく、最終的には常に自らの判断、すなわち「主の導き」に従ってタブマンは、行動を決定したということである。ちなみに、「主の導き」に従って行動した人間には、「上官の命令」を根拠に戦場での行為の責任を回避することはあり得なかった。彼女にとって「主」とは、事実上、彼女自身の良心のことであり、彼女は自分の行動は自分で決め、その責任は自分で取ると考えていたとみるべきであろう。


ちょうど日本の戦争の本を読んでいたので、ここの部分は刺さった。

現代でも誰かが「そう言ったから」と自分ではない誰かのせいにしようとしてしまうことはあると思う。実際に縦社会だと抗うのは難しい。でも、ハリエットは自分で決めた、そのために細かい部分まで綿密に計画を考えた。だからこそ成功したように感じる。

 

ちなみに映画化もされている。

ハリエット [DVD]

ハリエット [DVD]

  • シンシア・エリヴォ
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参考文献がとても興味深くて読んでみたい。

自由への道―逃亡奴隷ハリエット・タブマンの生涯―

特に女性史について描かれているとのこと。

アメリカの奴隷制と黒人 (明石ライブラリー)

今日までのもっとも総合的な北アメリカの奴隷制に対する研究とのこと。


アメリカの奴隷制を生きる フレデリック・ダグラス自伝


私は黒人奴隷だった―フレデリック・ダグラスの物語


12(トゥエルブ)イヤーズ・ア・スレーブ

2014年、第86回アカデミー賞作品賞受賞作、全部門のノミネート作品「それでも夜は明ける」の原作(原題"12 Years a Slave")。

こちらが映画版。


アメリカ南部に生きる: ある黒人農民の世界


アメリカ黒人の歴史 - 奴隷貿易からオバマ大統領まで


ジョン・ブラウンの屍を越えて - 南北戦争とその時代


ハリエットタブマン その生涯を心に描く

は残念ながら翻訳されていないよう。