春にして君を離れ (ハヤカワ文庫) [ アガサ・クリスティ ] 価格:990円 |
あらすじ
優しい夫、よき子供に恵まれ、理想な家庭を築き上げたと満ち足りていた。が、娘の病気見舞いを終えてバグダッドからイギリスへ帰る途中で出会った友人との会話から、それまでの親子関係、夫婦の愛情に疑問を抱きはじめー?!
読んでみて
アガサのミステリーではない作品。メアリ・ウェストマコット名義で出された作品だが、現在はアガサ・クリスティー名義となっている。
いつものミステリー小説とは違って死人は出ない。でもちょっとずつジョーンの過去が明かされ、真実が明るみに出る様はミステリーとそう大差ない。
最初、「ジョーンは何をそんなに悩んでいるんだ?」と訝しく思うが、次第に「どうして気づかないの?!!」と思うようになる。
いやー、よく気づかずにいたね!というか環境がそうさせていたのか?
結婚するのが当たり前の時代だし、離婚するのも楽じゃなかっただろうしね。
ジョーンの別バージョンがイプセンの「人形の家」のような気がする。
ジョーンは夫や子どもたちは「玩具」ではないかという思いに駆られる。それか自分が「玩具」なのではないか、と。真実に近づきながらも結局受け入れられず、なかったことにしてしまったジョーン。
でもここで向き合っても、改善したかは分からない。でも玩具ではなくなったのでは?と思う。
私はとにかく夫が一番嫌いだった!!いやーこれに尽きる!
ジョーンにもイライラさせられたけど、夫が一番嫌だった。
集団の中で虐げてもいい人間を決めるのって今までの歴史でもよくあるじゃないですか。例えば虐待をする親は虐待する子どもと可愛がる子どもを分けたりする。そうすることで他の家族は団結できる。
ジョーンはその生贄だったのでは?という感じがする。
子どもたちは母を馬鹿にしている。夫も馬鹿にして下に見ている。
みんなやれやれ、と言いながら団結している。
だから子どもたちも父親のことは大目に見ることができる。乳母に任せて子育てをしてくれなかったことを子どもが責めるけれど、父もそれは一緒なのに責められないよね。
仕事をしている父は偉いという前提がある上で、母は無能という烙印を押される。難しいことは考えなくてもいいとしたのは夫なのに。
もちろんジョーンにはイライラするところはあるし、子どもっぽいし、真実を受け取ろうとしないし、子どもたちへの対応はことごとく間違っている!
けども!
夫が最初っから諦めるのであれば別れればいいのに、と思う。
かわいそうなジョーン!でもそんなジョーンと一緒にいるしかない夫も十分可哀想だと思う。結局、二人とも何も変化せずに暮らしていくことを選択する。
側から見れば幸せな家庭だろう。でも中身はー?
二人は死ぬ時に何を後悔する?死んでから愛する人と会える日を待ち望むのか?
とにかく逃避行し続けた二人という感じ。こうなりたくない、という夫婦をここまで体現できることってそうはないと思う。お互いに悩んで腹を割って話して、揉めながらも苦しいながらも一緒にやっていくのがいいのだろうな。難しいけども。
とにかく正直さというのはとても大事なことなのだと感じた。取り繕わず、楽な方に流されることなく、関わっていく。
私も取り繕ってしまう面があるから注意しないといけない…。最近、赤毛のアンを読んでいるのだけれど、アンなら言えそうだと思う。まあその前にアンならこういう状況に合う前に気づくだろうけども。
読んでからしばらく時間が経ってしまったので、書きたかったことの半分も書けていないように感じる。すぐに書かないと薄れていっちゃうね。
とにかくさすがアガサ・クリスティーと思えた作品でした。読後感は悪いけども。
もうちょっと歳を重ねたらまた読んでみたい。
でもジョーンと同じくらいになるちょっと前に読みたいな。そっちの方がまだ色々と改善できそう。
ちなみにロドニーがジョーンに聞いたのはソネット18番。「心なき風、可憐なる五月の蕾を揺さぶりて 夏の日々はあまりにも短くー」