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ザ・ヘイト・ユー・ギヴ あなたがくれた憎しみ [ アンジー・トーマス ] 価格:1,870円 |
あらすじ
高校生のスターは、地元のパーティーの帰り道に警官に車を止められる。そして一緒に乗っていた幼馴染のカリルが警官に撃たれてしまう!武器も何も持っていなかったカリルへの発泡。すぐに事実が明らかになると思っていたが、警察はカリルを悪人に仕立て上げようとしー?!
読んでみて
ずっと読んでみたかった作品。題材が題材なのでとても悲しい。ただ、ヤングアダルト向けとても読みやすい。また、過度に残虐な描写(「地下鉄道」の拷問の表現のような描写)はなく、カリルが殺された後にスターの心境や周囲の様子、スターが立ち上がるまでを丁寧に描いている。そういう意味でも読みやすい作品となっている。
カリルとスターはまだ子どもだし、二人とも何もしていないのに犯罪者のように扱われることに対して憤りを感じる。
例えばこれが同じ年代の白人の男女だったら全く対応が違ってきたのだろう。
ここ最近、特にBLMが広がっていて世界的に注目されている。ここだけみると、最近になって警察から黒人への暴力が起こり始めたのかと思うが、差別自体はずっと行われていた。ただそれがここまでの問題にはならず、やっと最近になって問題視されてきた。その事実にまず驚愕する。そしてこの問題はまだ解決できていないということにも。
黒人への差別をやめるだけなのに、と感じてしまう。
でも、ここしばらく色々な本などを読んで、差別がかなり根深いこと。それは意識的な部分だけではなく無意識的な部分にもあること。
危機的な状況に陥ったと判断した警察官は、意識的には差別しない人間であっても無意識的には差別してしまう可能性があること。
そしてそれは白人だけではなく、黒人や他の有色人種の中にもある。
NETFLIXの「100人の回答」の「4偏見の塊?」の中に、黒人男性と白人男性の二人が銃か携帯を持って出てくるため、参加者は素早く判断して銃を持っている方を撃つという実験がある。この結果、黒人男性の方が白人男性よりも携帯を持っている場合に撃たれていた。しかも、参加者の半数は黒人を含む有色人種だったにも関わらず。
これは一例だけれど、多くの人々の中に偏見があることが分かる。だから実際に根絶するのには時間がかかるのだろう。
今作の主人公のスターは、ギャングがはびこる地域で育っている中では恵まれた環境にいる。両親がいて、両親ともに仕事があり、家もあり、学校は治安の良い私立に通っている。両親ともに教育を重要視しており、地元の危険はできるだけ排除しようとしている。
そんなスターでも、10歳の頃にギャングの抗争に巻き込まれて友人が殺され、さらに幼馴染のカリルが殺される。
ミシェル・オバマの「マイ・ストーリー」にも書いてあったのだが、このような街に住む子どものほとんどが自分の身近な人を誰かしら亡くしている。そういう世界に生きている。
日本に住んでいる私には、あまり想像ができない。銃が身近にではないのもあるし、公然と人殺しが行われているのが放置されているのも信じられない。
しばらく進むととても治安のいい場所があるのに、一方でとても治安の悪い場所があるということに。日本でも治安の悪さはあるし、夜にあまり出歩かない方がいいとかは女性の場合は多い。でも日中に、学校に行くだけなのにそういうことが起こるのは信じられない。人も人種も生い立ちも本当に様々な人がいる分、格差も大きいということなのだろうか…。
カリルが亡くなった後、スターは何もなかったかのように学校で過ごそうとする。ドラッグを取引していたカリルのことを話せなかったのだ。そして、スター自身もそんな状態のカリルのことを下に見ていた部分もあった。
もちろん何もなかったかのように過ごせるはずはなく、学校では不審に思われてしまう。カリルの死を当たり前に伝えて、当たり前に悲しめないのが悲しい。
スターが住んでいる地域とスターが通っている学校は本当に分断されている。そこではカリルの事件はドラッグを売っている犯罪者が警察に射殺された、適切ではない部分があったかもしれないけれど相手は犯罪者なのだから仕方がないーそういう風潮がある。
そのため、彼らはカリルが殺されたことへの抗議と言いながら、実際はそれをサボる口実に使う。例え距離的に近くで起こったことだとしても、学校の子達にとっては遠い世界の話なのだ。でもスターはその両方に身を置いているからこそ、本当の自分が分からなくなってしまう。
私立の学校に行っているスターはスラングも使わないし怒ったりもしない。他の生徒よりも正しくあらねばならない。自分らしくのびのびすることなんてできない。とても息苦しい状態になる。でも一方で、黒人が少ない分クールにみられる。ちょっと踊ればそれがクールになる。
地元に戻れば白人が通っているいい学校に通っている子としてみられる。普段会っていない子ばかりだし、浮いている。ここではただ踊っただけではクールになれない。むしろヘマをした噂が広がってしまう。
どちらにおいても自分の居場所がないスター。
カリルとは幼馴染だったが、会ったのは久しぶりだった。カリルの話はとても辛い。母はドラッグの依存症で、ずっと子育てができていなかった。ドラッグには手を出さないと決めていたカリルだが、母が薬を盗んでしまったことで一転する。この街で稼ぐにはドラッグしかない。悪循環が生まれる。
スターの父は街から出て行きたくない。自分の街を見捨てたくないと思っている。でも、その街で生まれ育ち、学んでも大した職にはつけない。スターのように他の場所にあるいい高校やいい大学に出ないと抜け出すのは難しい。
そう思うと、まず抜け出せるような賢さや親の協力やそもそもその年齢になるまでにドラッグに手を出さずに生きていられるような経済力が必要となる。
それがないと、抜け出すことは難しい。そんな無茶な!と思う。
生まれた場所で人生が決まってしまう状況がいまだに続いているということ。アメリカンドリームがあるはずなのにね。
スターは事件後すぐに声を上げたわけではない。
スターも被害者であり、傷を負っている。また、目撃者として注目されることには色々と問題もある。最初は警察に任せようと思っていたスターだが、自分が思っていたようには事が運ばないことを知る。
父との会話の中で、今までみんなが声を上げてきたことを再確認する。
「だから、みんな、声をあげてるんだね。なにも言わなかったら、なにも変わらないから」
「そうだ。おれたちは口をつぐんじゃいけねえんだよ」
「じゃあ、 わたしも口をつぐんじゃいけないんだね」
パバはだまって、 わたしのほうを見た。
その目は葛藤で揺らいでいた。パパにとってわたしは、そういった運動より大事な、なによりも大切な愛娘だ。口をつぐんでいることが、わたしの安全を意味するなら、もろ手をあげて賛成したいはずだ。でも、これは、カリルとわたしだけの問題じゃない。みんなの問題だ。わたしたちと同じ肌の色で、同じ思いを抱えた人たちの、わたしやカリルのことなんて知らないのに、この痛みを共有してくれている人たちの問題なんだ。わたしが口をつぐんでいたら、みんなのためにならない。
パパは、道路に視線をもどしてうなずいた。
「ああ。口をつぐんじゃいけねえ」
この場面で、マララさんを思い出した。マララさんとマララさんの父は二人とも活動家だった。娘が標的になることがどれだけ怖かっただろう、と思う。そしてスターの父も。でも大事なことだからこそ口をつぐまなかった。その勇気は本当にすごいと思う。
また、事件後、スターと友人の関係も変化していく。
ヘイリー、マヤ、スターはいつも仲良しな3人組だった。ヘイリーが2人を引っ張っていくような関係性だった。
良好な関係だと思っていたスターだったが、ヘイリーの言いなりになっていたことが多かったと気づく。そして、自分だけではなく、アジア人のマヤへの差別があったことにも。
「わたしは、おじいちゃんとおばあちゃんが遊びに来て、ふたりにとってははじめての感謝祭を家族みんなで祝ったことを話したの。そしたらへイリーが、猫でも食べたのかって。わたしたちが中国人だから」
まずい。必死で頭の中を引っかきまわす。フレッシュマンなんて、ほとんど中学生みたいなものだ。とんでもないことを言っていても、おかしくない。おそるおそるたずねる。
「わたし、なんて言ってた?」
「なんにも。そんなこと言うなんて、信じられないって顔でヘイリーを見てたけど。ヘイリーは冗談だって笑ったわ。わたしが笑ったら、スターも笑った」まばたきを繰りかえす。「ちっともおかしくなかったけど、笑ったほうがいいと思って笑ったの。その週はずっと最低な気分だった」
「そうだったんだ」
「うん」
今度はわたしが、その最低な気分を味わう番だった。ヘイリーがそんなことを言ったのに、だまってきいてたなんて信じられない。ヘイリーはいつもそんな冗談を言ってたの?わたしもそれをきいて、笑ったほうがいいと思って笑ってたの?
それがいけないんだ。わたしたちが言わせておくから、むこうはますます言うようになって、おたがいにそれが当たり前のことみたいになってしまう。言うべきときに、なにも言わないんだったら、なんのために声があるの?
「マヤ」
「なに?」
「もう、ヘイリーに、そんなこと言わせないようにしようよ」
マヤはふふっと笑った。「マイノリティ同盟?」
「まあ、そんなとこ」わたしも笑った。
「よし、決まりね」
それでもヘイリーと関係を続けるかスターは迷う。するとママが言う。
「その関係に修復する価値があるのか考えないといけないわ。まず、つきあっていてよかったことと悪かったことのリストを作るの。いいことと悪いことと、どっちが多いか比べたら、どうすればいいかわかる。保証するわ。この方法で失敗したことは一度もないんだから」
なるほど〜!確かに!いつか使わせてもらいたい。
側から見ているとすぐに分かることでも、自分自身はなかなか気づかないことって多いよね。
他にもママはとてもいいことを言っている。
「じっとわたしの目を見て言ったの。『正しい行いをしていても、うまくいかないときはあるわ。大切なのは、それでも決して正しい行いをやめないことよ』ってね」
それから車をおりるまで、ママはずっとわたしの手を握っていた。
傷ついて殻に閉じこもろうとしていたスターは、両親や兄弟、友人、恋人、他にも多くの人に支えられて、声をあげることに決める。なんとテレビに出て、ギャングの親玉を非難してしまう。チクると報復が待っているのに。
なんというか、スターたち家族や近所の人たちも誰もギャングの一員ではないのに、街全体がギャングになっているから、彼らもチクることはできない。生まれた時からそうなっているって思うと、抜け出すのが難しいとな、と思う。
色々な危機があって、ハラハラドキドキするけれど、最終的にはなんとかうまくいく。ただ、カリルの事件は別だけれど。そこがうまくいかないのは現在進行形の問題だからこそなんだよね。もうちょっと時代が進めば、きっと有罪の描写になっていくように思う。
読んでいて色々考えさせられた作品だった。
あまり知らない常識や単語が出てきたので、その度に調べて読んでいた。なんとなく知っていても調べてみると色々分かっておもしろい。
↓調べたこと↓
貧しい黒人が住む地域を「ゲットー」と呼ぶこと。
ブラック・パンサー党
ナット・ターナー
マーカス・ガーベイ
など。
↓黒人が奴隷として働かされていた時代↓
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地下鉄道 (ハヤカワepi文庫) [ コルソン・ホワイトヘッド ] 価格:1,232円 |
↓詳しい感想はこちら↓
↓命を脅かすほどの差別があった時代↓
↓1970年に発表された作品↓
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青い眼がほしい (ハヤカワepi文庫) [ トニ・モリソン ] 価格:1,144円 |
↓詳しい感想はこちら↓
ちなみに映画化もされいてる。表紙と一緒!気になる。