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【宮部みゆき】蒲生邸事件

宮部みゆき蒲生邸事件

宮部みゆき作品久しぶりに読んだよ〜。大満足!ただ今年中に全作品読むのは難しそう…。

あらすじ

大学入試に失敗した孝史は、予備校入試のために東京に上京するが、なんだか全体的に暗い男に出会う。泊まっていたホテルが火事になり、もうダメだと思われた時、その男が孝史を助けてくれるが、なんと昭和11年に来ていてーー?!

 

読んでみて

この作品のことは前から知っていたのですが、表紙が古臭そう(失礼)な感じがしてしまってなかなか読む機会がなかったんだよね。でもやっぱり宮部みゆき!読み始めるともう止まらない!読んだ後に表紙を見ると感慨深くなってしまっているから不思議。678ページもあるのにあっという間に読んでしまった。

この作品の元々の年代、主人公・孝史がいる現代は平成の初めで、今(2020年)からすると25年近く前の話になる。そのため、現代といっても今よりも結構前が現代になっているためそこも不思議な感じがする。孝史はこれから未来が待っている青年だったのだけど、2020年には40代のおじさんになっているわけで…。時代は巡るなあ。

主人公の孝史は生意気でプライドが高くって、でも本当は自分に自信がないからこそ攻撃的になってしまう。少年〜青年の間にいて、まだまだモラトリアムで。孝史の生意気で無鉄砲なところは読んでいてちょっとイライラしてしまうところも多かった。最初の場面でふきに戦争が負けるって言ったり。まあ平田のことを疑っていたわけなので、仕方ない状況だったのかもしれないけどね。ただ後からみると、孝史って平田に対して結構ひどいことしているなと。平田は孝史を助けたとはいえ、命をかけようともしていてお人好しすぎないかと思ったりね。あと孝史が二・二六事件のこと知らないのは無理すぎでは?と思ったり。聞いたことぐらいはあるのでは??興味ない人は興味ないのか??

昭和11年は1936年

表紙絵から見た感じだと戦後をイメージしていたんですが、実際は昭和11年。西暦で言うと、1936年。昭和よりも西暦で言われないと何年前なのかよく分からない。現代だと戦時中の情報をドラマとか本とかで見ることが多いからか、戦前ってそれよりも遅れているイメージを持っていたのだけど、戦前の方が潤っていたと知った時はなかなかに驚いた。戦争中は物資も少なくって、アメリカやヨーロッパを連想するものも全部取り締まられたからこそ、ああいう感じになったのだよね。車が走っていて電気があって〜とか思うと、私自身の知識は明治あたりのイメージから戦時中のイメージに飛んでいる気がする。でも昔の人は洗濯機なかったって言ってなかったけ?洗濯機はいつから??この時代に生きていた人たちは戦前から戦争に突き進んでいく間、戦時中、そして戦後を生きてきたわけで、本当に怒涛の人生だと思う。歴史は後から思うと、この時もっとこうしなかったんだ?って思ったりするけれど、その時精一杯生きている人たちにとってはなかなか難しいことなんだよね。

反戦がテーマ

最初はあんまり色濃くなかったのですが、途中からはすごく反戦のメッセージが感じられた作品だった。二・二六事件が大きな転換期となり、日本は戦争に突入していく。私たちは未来にいるから過去のことを色々言えるけれど、その場にいる人たちには未来が分からないからこそ、今の状況が将来どういう影響を持つのか分からない。平田は歴史は変えられないと言う。その考え方は面白いと思う。シュタインズ・ゲートとかでも誰かの死を変えようとすると誰か他の人が死ななければいけなくなる。そういう意味では平田と一緒だけれど、歴史の流れが変えられないというのはあんまり聞いたことなかった。でも、二・二六事件だって二・二六事件が突然起こったものではなく、それぞれの派閥があって、対立があって、その過程に至る歴史の流れがあったはず。そう思うと二・二六事件を防ごうとしても、結局歴史の流れの方が強くって軌道修正されてしまうってことなのだろうか。だから変えるならもっと根本から変えないといけないってことなのかなって思っていた。それこそ古代くらいにいったら結構変わるのでは??それとも結局流れには乗るのか。日本が戦争に突入したのは日本だけの問題ではなくって、世界の他の国々も関わっていたからこそ、日本だけ何かを変えようとしても結局は無理なのかもね。よくあの戦争は正しいか正しくないかとか議論されたりして、正当性を訴える人も多い。それは否定しないけれど、結果をみてしまうと被害が甚大すぎてなんのための戦争だったのかと思ってしまう。

 


葛城医師の言葉が心に残る。

「戦争は、戦争そのものが目的じゃあないはずだ。一種の外交手段だろう?ちゃんとした目的と先の見通しがあってこそ、戦うことの意味もある。だが昨今の軍人は、そのへんのところがどうも判っとらんようだ。だから嘉隆さんの言う、やたらと拳ばっかり振り回したって駄目なんだという意見には、大いに理があると私は思うよ」

 

国のために戦うか国民のために戦うかの違いのように思う。よくアニメや小説では国ではなく国民ことを一番に考える王とかが賢王とされるのに現実だとみんな気にならないのはなんでなのか。宮部みゆきはわりと戦争について書いた作品があるので、彼女自身先の戦争について思いを抱えているのだと思う。

宮部みゆきは1960年生まれ。戦後だけれど、彼女の親世代は戦争中を生きていただろうし、疎開をしていなければ東京の大空襲を経験したかもしれない。そしてそういう人たちがまだまだ周りにたくさんいる時に育ったのだと思う。

歴史を後からみて、なんでここでこうしなかったんだ、とか、こうすればよかったのに、とか言うの簡単。でも実際にその時、その時代にいて言えるかどうか。言えないなら言えなくなる前に言っておくべきだった、そうならないように何かするべきだったのだと思う。そして今生きている人は、今のこの瞬間や何かの出来事が将来の転換期だと言われる可能性があることも考えないといけない。過去の出来事に学んで、活かして、今を生きないといけないんだろうね。まあなかなか難しいけども。

 

タイムトラベルとミステリーと歴史小説

残念なことにこの作品に出てきた蒲生さんは本当にはいないらしいです。でもものすごく活き活きと描くよね。タイムトラベルものって最初知らなくって、宮部みゆきは不思議な話とかはよく題材にしているけれど完全にタイムトラベル、SFチックなのって珍しいなと思っていたら…。二・二六事件が主題の歴史小説ぽくなり、それで終わりかと思っていたらやっぱりミステリーにもなり!色んな要素が詰め込まれている本作。だから600Pくらいになったのねー。タイムトラベルもの好きなので宮部みゆきで読めて嬉しかった。そしてミステリー要素も出てきてワクワクでした。そこまで凝ったミステリーではなかったけれど、色んな要素をちょっとずつ摘めて楽しかったな〜。

 

ふきと孝史

なんか途中、ふきの正体はもしかして孝史のおばあちゃん?と思っていたけれど違いました。ふきと最初に会ったときに「懐かしい〜」「会ったことがあるような〜」って言ってたのって回収されたのかな?ちょっと分からなかったのだけども。

孝史とふきの淡い恋?に関してはあんまりときめかなかった笑。なんというか孝史が全体的に失礼すぎてね。「怒った顔もかわいい〜」とか孝史は思っていて、自分が怒らせたくせに何っているんだ!って感じが強すぎた。恐らく男性ならもっと共感できたのかもしれない。孝史がふきのことを守ってあげなくちゃ、助けてあげなくちゃっていう目線で見過ぎていて。自分より弱い人間だから自分が助けてあげなくちゃって思いが強すぎて。まがいものの神になろうとしていたくらいだからね。それに相手が心配したり怒ったりしているのにそれを「かわいい」で片付けられたら本人はたまったものじゃないと思う。ふきからしたら孝史は全然言うこと聞いてくれなくって、弟と同じ歳なのに弟より幼くて子どもっぽくて変な人って思ってたんじゃなかろうか。

ただ最後の手紙は感動した。ふきが孝史にきっぱりと未来に行かないことを告げたのもかっこよかった。タイムトリップものでよくある、孝史にしたら数日前なのにふきからしたら50年以上前っていう時間軸って問答無用で切なくなる。時かけも切ない。僕は明日、昨日のきみとデートするも切ない。恋愛ものって身分差だったり年齢差だったり敵対関係だったり色んな障害があるけど、一番どうしようもならないのは時空だよね。最初に時空ものと恋愛ものと掛け合わせた人はすごいと思う。切なすぎる。

 

最後に

今の生活に慣れ親しんでいるので、昭和11年に住むのは惹かれる部分もあるけど無理だな〜と思いながら読んでいました。でもきっと今から50年以上未来の人は2020年住むのは惹かれる部分もあるけど無理だな〜と思うことでしょう。当たり前のように日常を生きている当人からしたら普通のことなんだけどね。昨今の発展が目覚ましいので、20年後くらいには電脳コイルみたいなメガネができているのかな、と思ったり。

にしてもこういう歴史小説を書けるなんて宮部みゆきは本当に多彩!テーマが違っても読んでいると宮部みゆきだなあと思えて安心して読めるのだよね。