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文学系心理士が好きなことを徒然なるままに書きまくるブログ。小説、NETFLIX、たまに心理学のことも♪

【宮部みゆき】過ぎ去りし王国の城

宮部みゆき】過ぎ去りし王国の城

 

刊行当時表紙の絵が話題になった作品!黒板アートがすごいってね。これ当時高校生だったのかな?高校生が書いたとは思えないよね。登場人物の一人が美術部員の女の子だし表紙の絵とリンクする。絵上手い人はすごい!!ちなみにこの城本当にあるんだって〜。行ってみたすぎる。ウィーンのメルクにあるベネディクト会修道院らしいよ。絵とそっくり!調べてみて!

あらすじ

中学3年生の尾垣真(おがき しん)が拾った中世ヨーロッパの古城の絵は分身を描き込むとなんと絵の中に入ることができた!ところが真は絵が下手だったため、美術部員の城田珠美に描いてもらうことにする。珠美はなぜかクラスからハブられており、学年の女王さまとその恋人でモテ男からいじめられていた。淡々としていて面白味がないと思われている真友達もおらずいじめられており家族にも居場所のない珠美というはみ出しものの2人が不思議な古城に入ると、そこには幼い女の子が閉じ込められていてーーー

 

読んでみて

はっきり言うと拍子抜けした!!!これは完全に私が悪いんだけど、もっとがっつり世界に入って冒険する的な感じだと思ってたので、いつ世界にがっつり入るんだ?!と思いながら読んでいたらあれあれあれ、とね。もっとちゃんと予備知識を入れておくべきだったかも笑。

かといって面白くなかったわけではなくて、普通におもしろかった!!!相変わらず宮部みゆきっぽいな〜となったよ。そりゃ宮部みゆきだからなんだけども笑。

宮部みゆきって厳しい現実を突きつけるのが上手い。そんな酷いことが?悲惨なことが?辛いことが?起こった登場人物たちが多いのね。たとえありきたりなことでもどれだけ傷ついているのか辛いのか丁寧に書かれているからこちらもとても辛くなるし、相手がいる場合は相手に罰を与えたくなる

本作がそうだった。いやほんと、そんな酷いことされたなら罰が与えられて然るべきってね。勧善懲悪というかそれ見えたらすっきりするのに〜〜〜って思う。でもまあそんなこと起こるわけないんだけど、だって現実を書いているんだからね。小説だけど現実を描くのが宮部みゆきだから、簡単にはいかない。

未知の世界に行って何か乗り越えて帰ってきたら現実世界も良くなっていた、なんてそんな上手いこといくわけない。違う課題を乗り越えただけで、元々持っていた課題を乗り越えたわけじゃないんだからね。それに一緒に乗り越えた真とも別れるのもなんともね…。まあ出てきた当初からこの2人は終わる頃になったら「付き合っている」2人ではないだろうな、というのはなんとなく思っていた。恋人とか友人とかじゃなくて、一時的に協力して戦った戦友みたいなね、そんな感じなんだよなあ。

珠美のいじめられ方がね、多分学生時代に苦い経験のある方なら分かる感じなんだよ。珠美が真に説明したりするところがあるんだけど、存在自体を疎まれてるんだよね。だから声かけただけでもダメだし、物を拾って渡すなんてもってのほか。こういう感覚分かる人多いんじゃないかな?分からないなら多分そういう標的にならなかったんだと思う。

私は苦い経験があったので、めっっっちゃ分かったよね。触るだけでダメ、近づくだけでダメ、相手はこっちの存在が嫌だから当たり前なんだよね。いじめっ子の2人は、珠美のこと人間だと思ってないんだよ。多分ああいう2人がこの小説を読んだら自分たちのこと非難できると思う。なぜなら被害者のことは人間だと思っているから。別に良いことと悪いことが分からないわけじゃない。でも珠美のことは人間って思ってないからできるんだよね。罪悪感なんて感じなくて済むし、むしろ当たり前のことだと思っているから。

珠美はそういう世界で生きてきて、しかも家にも居場所がなくて、どこでも戦ってきた子だった。誰かに助けを求めることができるほど人とも関われなかった子。そんな珠美にとって真や一緒に旅したパクさんはかけがえのない存在になったんだと思う。でもこれからの人生を立ち向かわないといけないのは自分自身だから、弱みをみせた相手と一緒にいることは人生に立ち向かうことができなくなるってことになった…。これがせつない。多くの人は特別な相手がいるから立ち向かえると思うんだけど、珠美は違うんだよね。例えば常に一緒に歩んでくれるパートナーだったらまた変わったんだと思うんだけど…。そういう相手と出会えない限り1人で立ち向かうのかなあと思うとね。でもまあ本当に独りなわけではないんだけどね。離れててもお互い大事な存在ってことは変わらないし、一緒にいないことで一緒にいる(心の中では)っていうのを実現しているのかもしれない。

でも希望がないわけではない。だって少女を助けることができたし、そういう選択肢を知ることもできた。一筋縄ではいかない物語だけれど、色々感じられておもしろかったな〜。学生に読んで欲しい本かな!!!