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【宮部みゆき】ばんば憑きの中の「討債鬼」

宮部みゆきばんば憑きの中の「討債鬼

江戸ものばかりを集めた宮部みゆきの短編集6編がそれぞれお良い味を出していて、永遠に読みたくなる。「日暮らし」の政五郎おでこ、「あんじゅう」の青野利一郎、お馴染みの面々が登場する短編もあって顔が綻んでしまう。ちょっと不思議で、ちょっと鳥肌がたって、ちょっと物思いに耽る物語たちが愛おしい

今回は「討債鬼(とうさいき)」についてつらつら述べるよ!

ばんば憑き     

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ばんば憑き (新人物ノベルス)

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お文の影 (角川文庫)

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表題の「ばんば憑き」についての感想はこちら↓

oljikotoushi.hatenablog.com

 
討債鬼のあらすじ

あんじゅう」でも活躍した浪人青野利一郎は、手習所「深考塾」を引き継いで、子どもたちの先生をやっている。ある時、手習所に通っている子どもの一人、紙問屋「大之字屋」一人息子である信太郎のことで、番頭の久八がやってきた。彼は、坊っちゃんを殺してください。」と涙ながらに利一郎に頼むのだった。どうやら信太郎は「討債鬼」になっているため、旦那様、信太郎の父に仇なすと言うが…。

 

討債鬼とは

生きていた頃に何かを貸していたにも関わらず返してもらえなかった者が恨みを抱いたまま死ぬと、借り主の子どもに生まれ変わって貸していた分の金を費やして恨みを晴らすらしい…。


読んでみて

久しぶりに会う、青野利一郎と、加登新左衛門と妻の初音が懐かしい。2人のことは、読者である私たちも直接知っているわけではないのに、「あんじゅう」の話が微笑ましくて懐かしくてまた出会えたことに嬉しく思ってしまう。

そんな青野利一郎が活躍するお話なので、子どもが殺されることにはならないだろうとある意味安心して読める。

ところが、意外に青野利一郎の過去が描かれていて、そちらがなんとも辛い。そんな主君なら討ち取ってしまえば良いのに、と思わずにはいられない。まあ、現代を見ても能力のない政治家が無策な政治を行なっているのを思えば、今も昔も変わらないのだろうな。ただ、その政治家がいなくなるまでに、どれだけの人が苦しみ、傷つくのかを思うと大変辛い。利一郎と家族、許嫁の美緒、どうにかできなかったのかと悲しく思う。一人だと人間は無力だよなあ

悲しい過去を持つ利一郎の話を裏地に物語は続く。面白いことに、最初はなんてひどい坊主だ信太郎を殺せというなんて、と思っていたけれど、利一郎が坊主と全く会えない状況が続くうちに、あれ?と思い始める。坊主が敵だと思っていたけれど、実際は違ったのだろうか?と

最初は坊主憎しだったのか、いつのまにやら憎めない坊主になっている。利一郎も突っ込みながらも坊主を受け入れ、一緒に鬼を倒すことにする。面白い協働作業だ。本当の鬼、それは鬼に見えないのだなあ、と思う。本当の鬼は人間だから、利一郎は昔は討つことができなかった。今回はうまくいくのか、半分ドキドキ、半分恐々として読み進めていた。

ただ、なんとも言えないのが信太郎子どもは賢い。いくら周りの大人が隠したところで、親が自分のことをどう思っているかはなんとなく分かってしまう。親から忌まれる子どもほど辛いものはない。なにしろ親からどれだけ忌まれても子どもは心の底から親を嫌うことはできないから。なんでなんだろうね。小ガモが最初にみたものを親だと思って愛着を持つように、子どもも親に愛着を持つようにできているんだろうか…。酷い親に生まれたら、愛着なんて持たない方がお互いに良い気がするのにね。

そんなこんなで坊主と利一郎で信太郎の討債鬼を倒すことになるけれど、信太郎の父・宗吾郎だんだん哀れに感じる。兄から奪ったお店、妻、そして人生。自分ではなかったかもしれない人生。今も自分のものではないように思う人生。兄に対抗し兄に負けないように。そうやってしか生きてこれなかった宗吾郎。自分の人生を自分らしく歩めないのは悲しいなあ、と思う。今回のことがきっかけで少しは自分らしく生きれると良いかもね。でも本当に鬼がいるなら無理なのか…?ただ、子どもを殺してでも自分とお店が大事なのはちょっと問題だと思うけど。信太郎が無事脱出できて良かった。後妻に入るおかねと子どもが良い人生を遅れると良いけどなあ。でも、肝の据わったことを言うおかねなら大丈夫かもしれない。

ーー旦那の鬼なら、あたしと赤ん坊で、今度こそ払い落としてみせるから。

こんな逞しいことを言えるおかねを嫁にもらえるなんて宗吾郎にはもったいないような気もするし、そう言ってもらえる宗吾郎は違う側面からみたらそんなに嫌なヤツじゃないのかもしれない。それに、おかねならきっと自分から宗吾郎にぶつかっていくだろう。信太郎の母・吉乃にはそういうところがなかったのかもしれない。吉乃が悪いわけではないけれど、宗吾郎も吉乃もお互いがぶつかり合うほどお互いのことを好んでいなかったんだろうなあ、と思う。ぶつかってくれる人ってけっこう人生においては貴重なのかもしれない。ムカつくこともあるけどね。

 

青野利一郎が活躍?する「あんじゅう」はこちら↓

ちなみに「三鬼」を読んだあとに今回の「討債鬼」を読んだのでなんだか胸に来るものがありました…。ぜひ「三鬼」も読んで青野利一郎を堪能して欲しい…。

三鬼 三島屋変調百物語四之続 (角川文庫)

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