【JRRトールキン】指輪物語 王の帰還・下
ものすごい喪失感。物語が終わってしまった。「末長く幸せに暮らしました」で終わってくれたらどれだけ幸せか!最後の別れがとっても悲しかった。今度はみんなで行けないんだね。もう二度と仲間が全員揃うことがないっていうの本当になったんだなあ。
以下けっこうネタバレあり!!
最後の戦い
フロドとサムの戦いはとにかく大変で辛くて苦して、でもとうとう山に登って。でもそこでフロドは自分が指輪の所有者だと宣言してしまったから大変。指輪に魅入られたフロドはサムにけっこうひどいことを言うので読んでいて辛かった。我に変わったフロドは謝るのだけども。ビルボも指輪を手放したくなかったしゴクリは例にも漏れず指輪に魅入られたあんな姿になってしまったわけで…。だからフロドが潔く諦めれないことは分かっていたけれども。そう思うと期間は短かったとは言えサムが指輪を手放せたのは凄かったのではなかろうか。
二人が頑張っている間にも、アラゴルンたちは最後の戦いに備えていて、ピピンも大変なところで終わってしまっていたし、こちらもどうなったのか、どうなるのかとても気になっていた。でも私が予想していたよりはフロドたちもアラゴルンたちも酷くはなかったので安心した。ゴクリも結局指輪がなくなったら生きていられなかったわけだから仕方なかった。そしてガンダルフが言っていたことが最後にその通りになったのでした。
戦いのその後
本のわりと序盤あたりで戦いは終結したからこの後何するんだ?と思ってたいけれど、まだまだやることがいっぱいあったのでした!指輪物語は旅を丁寧に描いていて、よくある話なら敵を倒してたくさん褒美をもらって末長く幸せに暮らしましたってなるだろうけど、そうはならない!まあ確かに行きがあったんだから帰りもあるよな。
相変わらずアラゴルンが好きだなあと実感する場面。かっこいいだけじゃないこの性格が好き。
「馳夫さんだが。でなきゃ、おらはまだ夢みてるだ!」
「そのとおりだよ、サム、馳夫だよ。」と、アラゴルンがいいました。「ブリー村からの道は長かったねえ? あそこではあんたはわたしの顔つきが気に入らなかったようだが。われら全員にとって長い道だったが、あなたたちのが、なかでも最も暗い旅路だった。」
行きの旅しか考えていなかったフロドとサムにとって、目的を達した後でさえ死を覚悟した二人にとってこのお祝いは本当に夢心地だっただろうな。
そしてアラゴルンはアルウェンと結婚するのだけど、あれ?そうだったけ??とよく分からず。調べたところ、アルウェンについては裂け谷にいた時とアラゴルンがドゥネダインたちに再会する時くらいしか出てなかったらしくて。この二人の物語はどこかに載っているのかな??
旅の仲間と少しずつ別れるのが悲しいし寂しい。ちょっとずつ増えていったのと同じくちょっとずつ減っていってしまう。
ギムリが相変わらず面白い。
「ではご機嫌よう、ホビットさんたち!あなた方もこれでもう家まできっと無事に帰れるよ。それでわたしも、あなた方の危険を気遣って、目を覚ましてることもないだろうよ。機会があれば便りをするからね。われわれのうちの何人かはこれからも時々会えるかもしれないし。だけど全員が集まることは二度とふたたびあるまいなあ。」
でもこの最後の部分が!二度と集まることはないのね!みんなそれぞれ違う人生を生きていくのね…。悲しいなあ。ピピンがお互い通信できるものがあればいいのにって言う場面があるのだけど、本当にそれがあったらどれだけ良かったか!そう思うと今は携帯があってどれだけ遠くにいても話せるのってすごいことなのだなあ。それにフロドたちみたいに歩かなくても馬に乗らなくても電車もあるし飛行機もあるし。すごく便利だし有り難く感じた。でもなんだろう。フロドたちの旅ってなんだか羨ましく感じる部分もあるんだよね。大変だけど、人と人との交流がすごくあるから。そういうのが羨ましいのかな。
読んでいると一緒に旅をしているみたいに感じられるんだよね。道中の一つ一つが丁寧で人と人が関わっている感じがするんだと思う。主要な人物だけで構成されているのではなく、宿屋のバタバーも王のアラゴルンもみんな本当の人間でみんな生きていてそれぞれ人生があって生身の人間と関わっているっていう感じがするんだよね。
ビルボとの再会
もう会えないと思っていたから会えて良かった!でも!なんだかすごく弱っているビルボを見るのは悲しかったし、もうすぐ亡くなってしまうんじゃないかって怖かった。人はいつか老いるし死ぬのだけど、でも身近な人に起こるのってとても辛いし悲しいことだよね。当たり前のことだけど悲しいものは悲しい。ビルボがもっと元気だったころの冒険の話を今度は読もうかな。
そしてとうとうガンダルフとさえ別れることになってしまう。いまいちガンダルフやエルフたちが去るっていうのがよく分からなかったのだけど、でも永遠なんてものはないからこそ、いつかは退かないと行けない日が来るのだろうな。人間には死っていう分かりやすいものがあるけど、長い年月生き続ける人(人ではないけど)にとっては死という変化がない代わりに違う変化があるのだろうな。最後のガンダルフの言葉が嬉しい。
あるいはみなに力を貸してそうさせることも、もはやわしの任務ではないのじゃ。それにわが親愛なる友人方よ、あんた方についていえば、あんた方はいかなる助けも必要としないじゃろう。あんた方は成長した。実に大きくなった。あんた方は偉大な者たちの数にはいっておる。わしはもはやあんた方のうちの一人としてなんら心配を抱いておらんのじゃ。「ともあれ、わしはまもなく道をそれるじゃろう。ボンバディルとゆっくりしゃべろうと思っとるのじゃ。わしが今までの一生にしゃべらなかったくらいしゃべるのじゃ。かれは苔むすほどの不動石じゃが、わしは転がるべく運命づけられた石じゃった。じゃが、わしの転石の日々も終わろうとしておる。わしらには互いに話すことが山ほどあるじゃろう。」
みんなそれぞれいなくなり、とうとうホビットたちだけになる。みんなは故郷に帰れるのを楽しみにするが、フロドだけは違う。
「さあ、これでぼくたちだけになった、一緒に出発した四人だけだ。」と、メリーはいいました。「ほかの人たちはみんな、次々とあとに残して来たんだね。まるでゆっくりと醒めていく夢みたいだな。」
だよ。」
「わたしにとってはそうじゃないね。」と、フロドがいいました。「わたしはもう一度眠りに落ちていくような感じだよ。」
あの素敵なホビットの町にまた出会える!と思っていたので、まさか!そんな!ひどいことを!という感じでした。あの素敵なホビットの町を人間の町みたいにするなんて!いや本当に人間の町だと思う。一人では必要の中ほど溜め込んだり、水を汚染したり、自由にすることを抑圧したり。いろんな社会的な風刺をしているように感じる。トールキン自身も同じような体験をしたのだろうか…。必要以上に富を溜め込むことも木を切り捨てることも余裕なくお互い監視しながら働きまくることもまさに日本にあてはまる!以前は勤務中にお酒を飲んで〜っていう描写があるのだけど、まあお酒を飲むのが適切かは微妙だけれど休憩も満足にできないのは息苦しいよね。消防車の人とか制服着てコンビニ寄ったりすると非難される国だからね。きっとホビットたちからしたら日本って死ぬほど生きづらそうだと思う。それに慣れている私たちって…。もう少し肩の力抜いてもいいと思う。
そして結局サルマンもある意味収まるところに収まったというか。ゴクリもそうだけど結局収まるところに収まってくれるんだな。
旅の仲間の別れ
フロドは行ってしまうんだなとは感じていたけれど最後の最後でもう号泣してしまった。
「港にだよ、サム。」と、フロドはいいました。
「おらは行かれません。」
「そうとも、サム。ともかく今はまだ行けない、港より先にはね。もっともお前も、ごく僅かの間とはいえ、指輪所持者であったわけだね。お前の時も来るだろう。あまり悲しがってはいけないよ、サム。お前はいつも二つに引き裂かれているわけにはいかない。お前はこれから長い年月、欠けることのない一つのものでなければならない。お前はこれからたくさんのことを楽しみ、立派な者になり、よいことをするんだから。」
「それでも、」と、サムはいいました。その目には涙が溢れ出てきました。「おらはまた旦那もホビット庄の暮らしを楽しまれるもんと思ってましただ、これから先何年も何年も。あんなに尽くしなすったというのに。」
「指輪所持者」は行かなくてはならない。そして中つ国には指輪はなくなり指輪所持者もいなくなる。そしていつかは全てが伝説になってしまうのだろう。それにしてもモルドールで今度こそフロドと離れまいと思ったサムがフロドと別れてしまうのはとても悲しい。
メリーとピピンが、大急ぎで馬を走らせて来ました。ピピンは涙を流しながら笑いました。
「あなたは前にもぼくたちをまこうとして失敗しましたね、フロド、」と、かれはいいました。「今度はもう少しで成功するところだったんだけど、やっぱりまた失敗したんですよ。だけど今度あなたのことをすっぱぬいたのはサムじゃなくて、ほかならぬガンダルフ自身なんですからね!」
「そのとおり、」と、ガンダルフはいいました。「一人で帰るより、三人一緒に帰ったほうがまだましじゃろうと思ったのでな。では親愛な友人たちょ、いよいよここなる大海の岸辺において、中つ国でのわしらの仲間の縁が終わることになった。恙なく行かれよ!わしはいわぬ、泣くなとはな。すべての涙が悪しきものではないからじゃ」
本当にその通り!サムだけ連れていくなんて!でもメリーもピピンも来てくれてよかった!本当によかった。最初の物語の冒頭と重なって泣けた。あの時は旅がどうなるかは分からなかったけれど、みんな一緒に旅をできるって安心感があった。でも今回は違う。きっとフロドとはもう会えないんだろう。旅が終わったのはよかったけれど、永遠に旅が続いて欲しい気持ちにもなった。
ようやく三人は馬首を転じ、 もう二度と後ろを振り返らず、ゆっくりと帰路につきました。三人はホビット庄に帰り着くまで、お互いに一言も交わしませんでしたが、長い灰色の道を行く間、めいめいが友人たちの存在に大きな慰めを得たのでした。
(中略)
しかしサムは水の辺村に向かい、こうしてたたび日が暮れる頃、お山の道を登って行きました。いよいよ家路につきますと、家の中には黄色い明かりがまたたき、援炉の火が燃え、夕食の支度が整って、かれの帰宅が待たれていました。そしてローズがかれを中に迎え入れて、椅子に坐らせ、その膝に小さなエラノールをのせました。
かれはほーっと一つ深い息をつきました。「さあ、戻ってきただよ。」と、かれはいいました。
この指輪物語ってフロドじゃなくてサムの物語だったのだなと。暖かい家に待っている家族がいるのがここまで幸せそうに感じたのは初めてかもしれない。きっとこの一瞬一瞬もいつかは思い出になるんだろうね。
今、追補編読んでるのでもう少しだけ指輪物語の世界に浸れていて嬉しい。